業界を知る 〜電子部品業界(オムロン)〜

2021.01.14

今回は、電子部品業界のなかからオムロンを取り上げる。
 
【オムロン】
オムロンの事業は3つのドメイン(ファクトリー・オートメーション、ヘルスケア、ソーシャルソリューション)があり、それらを支える電子部品事業(リレー、スイッチなど)で構成されている。我々の身近なところでは、体温計や血圧計、駅の自動改札機といったところだろうか。
 
オムロンについても語りたいところは多くあるが、まずは我が国を代表するサステナビリティ最先端企業という点だろう。SDGsの観点でいえば、同社は日本経済新聞社が行っている「日経SDGs調査」で毎年上位にランキングされている。ちなみに同社は2020年3月期の二酸化炭素(CO2)排出量を前年度より22%減少させたという(日経電子版 2020年11月17日)。
 
同社のサステナビリティの詳細(事業を通じた社会的課題の解決、ステークホルダーの期待に応える課題の解決)については、「統合レポート」やHPで見ていただきたい。なお、同社がSDGsの先端企業というのは日本国内だけでなく、世界的な評価である。同社は2020年11月にEcoVadis社(本社:フランス)のサステナビリティ調査(世界160ヵ国、200業種、65,000以上の団体・企業を評価する)で上位1%に入る最高ランクの「プラチナ」評価を獲得している。
 
さらに付け加えるならば、これも2020年11月になるが、同社はサステナビリティ投資の株価指標として世界的な指標である(DJSI World、ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・ワールド・インデックス)の構成銘柄に4年連続で選出された。2020年は、主要グローバル企業3,500社を対象に調査を実施し、323社(うち日本企業39社)が選定されたという。このように、オムロンは世界のトップを進むSDGs企業なのだ。
 
ここで読者の皆さんはお気づきになると思うが、サステナビリティ先端企業は同時にESG(環境・社会・ガバナンス)を強く意識した経営を行っている企業でもある。同社の場合は注力する企業理念経営がベースにある。すなわち、「オムロンは、企業理念の実践のもと、社会の変化をいち早く捉え、事業を通じて社会的課題を解決してゆくことで、よりよい社会、人が輝く豊かな社会に貢献していきます」(同社HP)という企業理念がESG経営そのものに該当する。2021年3月期1Q決算資料には、同社の存在意義として「事業を通じて社会価値を創出し、社会の発展に貢献し続けること」と力強く言い切っている。オムロンは自他ともに認める「社会の公器」なのである。
 
オムロンは企業経営の視点からも注目される。上場企業の経営では東京証券取引所によるコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が適用され、企業は「資本コストを意識した経営」を求められる。ここでいう資本コストとは、企業が資金調達をする際に必要なコストのことである。ファイナンスの講義になってしまうので詳しい説明は割愛するが、資本コストを意識した経営を現場に具体的に落とし込むことはかなりの困難を伴う作業である。オムロンはROIC(投下資本利益率のことで企業が事業活動のために投じた資金を使って、どれだけ利益を生み出したかを示す指標)経営を確立している。言い換えれば、資本コストを意識した経営が十分になされている企業と言ってよい。
 
「統合レポート2020」ではCFOメッセージが掲載されている。そのなかで日戸興史取締役執行役員専務CFO兼グローバル戦略本部長は、ROIC経営の二つある柱の一つポートフォリオマネジメント(もう一つはROIC逆ツリー展開)について「現在約60ある事業ユニットに対して、ROIC10%というハードルレートを課している。10%という基準は、それがオムロンの想定資本コスト6%をカバーする水準だからであり、それを下回ることは企業価値を毀損するに等しい、と全事業に伝えています」と述べている。
 
一方、もう一つ柱であるROIC逆ツリー展開については、「統合レポート2020」のなかで「ROICを各部門のKPI(成果指標)に分解して落とし込むことでROIC向上を可能にしている。(中略)現場レベルで全社一丸となりROICを向上させているのがオムロンの強みです」と書かれている。このように資本コストを意識した経営を実現しているオムロンに対する国内外機関投資家の評価は高い。
 
同社が選定されている主なESGインデックスは、上述したDJSI WorldをはじめFTSE4Good Index Series、MSCI ESG Leaders Index、MSCI SRI Index、MSCI ジャパンESGセレクト・リーダーズ指数、MSCI日本株女性活躍指数など多岐にわたる。またみなさんの身近なところでは、経済産業省・東京証券取引所選定の「なでしこ銘柄」や「健康経営銘柄」などにも選定されている。
 
さて、ここまで触れなかったが創業者立石一真氏についても見ておこう。同氏はオムロンの前身である立石電機(昭和7年設立)を世界のオムロンに育てた名経営者だ。とくに「大企業病」という言葉を造って、自社の「大企業病」を率先して治したのも一真氏である。創業者に関心のあるみなさんは、同社HPに創業者物語があるのでぜひ一読してほしい。また、さらに深く知りたい向きには、湯谷昇羊著「できません」と云うな-オムロン創業者立石一真(2011、新潮文庫)をお薦めする。
 
この本は立石一真の生き方が詳細に書かれたとてもいい本だ。第12章の「大企業病退治」も参考になるが、第13章の「人を幸せにする人が幸せになる」がとくにおもしろい。そのなかに、以前に取り上げた日本電産の永守重信会長との交流が書かれている。永守さんは日本電産創業時の苦しい時期に何度も立石一真氏に会って、元気づけられていたという。立石氏は多くの経営者に影響を与えていたのだ。
 
オムロンの採用HPを見ると求める人材像は、「世界の社会課題の解決に、誰にも負けない強みを持ってチャレンジできる人財」である。具体的には、(1)困難な状況に置かれても、前向きに乗り越えられる人、(2)誰にも負けない領域を持っている人、(3)グローバルに活躍しようという志を持っている人、の3点だ。
 
どうだろう。ここまで説明してきてみなさんは、世界から評価されるサステナビリティ最先端企業オムロンで働きたくなったのではないだろうか。ただし入社のハードルは高い。学生時代から専門分野の勉強はもちろん、英語力の向上、社会貢献活動など毎日切磋琢磨して自分を高めておくことが必要だろう。