今回は電子部品業界を取り上げる。電子部品はいわゆるBtoBビジネスなので、食品企業などと違い、この業界に詳しい文系の学生諸君は多くないと思われる。しかしながら、電子部品業界は我が国の技術力を結集した一大産業であり、世界的に知名度がある優良企業も多い。
私は電子部品業界について、これまでも順調に拡大してきたが、後述するように中長期的には市場規模が一段と拡大するきわめて有望な業界と考えている。なお、本ブログでいう電子部品は半導体を除いたものとする。
まず我が国の電子部品業界の概観についてみよう。2019年の市場規模は約9兆円であり、日系メーカーの世界生産額に占めるシェアは37%(電子情報技術産業協会による2019年見込み)と存在感を示している。
電子部品は主にスマートフォン(以下、スマホ)や電子機器、産業機器、自動車など幅広い分野に使用される。我が国の電子部品メーカー各社の取引相手も世界のグローバル企業である。このため、今回の新型コロナウイルスによる世界的な景気低迷、あるいは米中貿易摩擦の拡大による中国の大手スマホメーカーHUAWEIやZTEの排除などのマイナスの影響は避けられない。しかし中長期的な視点に立てば、電子部品の需要は今後順調に伸びていくのはほぼ間違いないものと考える。以下ではその理由を挙げてみる。
一つは、次世代通信規格「5G」関連の投資拡大だ。電子部品は「5G」スマホ本体の製造に使われるほか、通信基地局やデータセンター向けにも需要が拡大している。そして「5G」により実現されるのが、IOT(Internet of Things)である。従来インターネットはPCやスマホ、プリンターなどIT機器に接続されていたが、これからは一部で実用化が進んでいるようにスマートハウス(テレビ、冷蔵庫、エアコンなど家電製品がすべてインターネットにつながる)が日常の世界になってくる。我々の生活は大半が「5G」スマホでコントロールできるようになるのだ。これは決して夢物語ではなく、また遠い未来の話でもない。
二つは、自動車向け用途の拡大である。2020年7月に米国の電気自動車メーカー「テスラ」の時価総額がトヨタ自動車の時価総額を超えたことが話題になった。電気自動車はハイテク電子部品の集合体といえるもので、この先電気自動車の普及とともに電子部品の供給は急速に増えるだろう。また従来型の自動車でもカメラやセンサーなど先進運転支援システム(ADAS)の導入が進んでいる。最近の自動車会社の新車CMを見ていると、自動運転システムや危険回避システムを売りにしたものが多いことにお気づきだろうか。センサーやカメラモジュールなどの搭載が増えているのだ。
三つは医療機器向けの拡大である。医療機器は医療技術そのものの進歩や高齢化などで、高度化が著しい。医療機器市場は世界的な拡大が見込まれているが、医療機器に組み込まれる電子部品は高精細を誇る日本メーカーの特徴が活きる分野といえよう。ちなみに、IOTは医療の分野でIoMT(Internet of Medical Things)とも呼ばれる。
これまで見てきた以外にも、産業機器(ロボット、工作機械等)向け、スマート社会・スマートシティの実現に向けて我が国の電子部品メーカーが活躍するフィールドは多そうだ。学生の皆さんにはロングタームで成長が期待される電子部品業界にぜひ注目して欲しい。電子部品メーカーといえば、各種部品で世界トップシェアを持っている企業、その結果として営業利益率が10%を超えるような高収益企業が多いことでも知られる。なお、個別電子部品メーカーについては、次回の個別企業編で触れることにしたい。
ところで、みなさんは電子部品には、どのようなものがあるかご存じだろうか?自分でパソコンを組み立て当たりする方や国際展示会CEATEC(Combined Exhibition of Advanced Technologies)に出かけているパーツファンの方以外は、高校の物理や化学の時間に勉強した記憶が残っている程度ではなかろうか。電子部品の種類は数多いが、次では主要部品4つを紹介する。
【コンデンサ】コンデンサは電気を蓄えることができ、電子回路の必要に応じて電気を供給する役割を担っている。家電製品やエアコン、パソコン、スマホなどを正常に稼働させるため、そうした機器の回路に必ず使われる。近年はスマホ向けに積層セラミックコンデンサ(MLCC)、エアコンや自動車向けにアルミ電解コンデンサが伸びている。コンデンサのなかでは、MLCCの市場規模が最も大きく、村田製作所や太陽誘電が主要メーカーである。アルミ電解コンデンサでは、日本ケミコンやニチコンが大手である。
【インダクタ】インダクタはコイルの別名である。みなさんも一度は見たことがあるはずだ。細い金属(導線)をぐるぐる巻きにしたあの部品である。インダクタは電流を安定させ、電圧を変化させる役割がある。インダクタもスマホやパソコン、自動車など幅広い分野で使われる。TDKや村田製作所、太陽誘電が強い。
【コネクタ】コネクタは電子機器や基盤、回路などを電気的に接続させる部品である。我々の身近なところではUSBなどもコネクタだ。コネクタも家電製品や電子機器、パソコン、スマホ、自動車、FA・計測器など幅広く使用される。コネクタを手掛ける企業は、ヒロセ電機、日本航空電子工業、京セラ、フジクラ、イリソ電子工業などが挙げられる。
【モータ】モータは電気エネルギーを動力に変換する装置である。モータはエアコンやパソコン、HDD(ハードディスクドライブ)、スマホ、自動車、ロボットなど用途は広い。私たちの身近で言えば、BDD(ブルーレイディスクドライブ)や電動自転車、自動車のパワーウインドウなどもモータで動いている。主なメーカーは日本電産、マブチモーター、ミネベアミツミ、安川電機など。
最後に電子部品メーカーの採用について。コネクタ大手のヒロセ電機の募集要項で職種を見ると、海外営業、国内営業、総務、人事、経理、経営企画などとなっている。また日本電産の場合は、海外営業、国内営業、経理・財務、法務、広報・IR、総務、人事、経営企画となっている。このように大手部品メーカーはほぼ同じような職種の募集となる。海外営業(グローバル化でニーズが高い)では語学力や異文化適応能力、経理や法務、広報・IRなどでは将来的に高い専門性が求められる。ただほとんどの大手企業は社内教育が充実しているので、さほど心配する必要はないだろう。