今回は総合商社を取り上げる。
総合商社はかつて1980年頃までは「ラーメンからミサイルまで」と称されたように幅広い商品を貿易などで仲介するトレーディングビジネスが主流だった。ところが、その後はメーカーが海外展開を本格化させたことで、メーカーと小売業の直接取引(中抜き)が進んだ。このため商社は事業会社や資源権益に投資をしてリターンを得る「事業投資」に注力することとなった。したがって現代の総合商社の事業モデルは、トレーディングと事業投資が二本柱になっている。
総合商社は、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅が大手5社で、トヨタ系の豊田通商、双日、兼松などが続いている。総合商社の業績はきわめて好調で、直近の2019年3月期は各社ともに過去最高益が見込まれる。これは、①資源価格の上昇で資源分野(出資した鉱山からの持ち分法利益取り込みや配当など)の収益拡大、②非資源分野(食品・機械、化学など)の成長、の二つによるものである。上述した事業モデルの二本柱がともに伸びている格好である。
総合商社は空前の業績拡大期にあるが、数年前の2014年度から2015年度にかけて資源価格の急落で軒並み赤字決算を余儀なくされた。そこで各社は資源頼みの経営からの脱却を図るべく、力を注いできたのが非資源分野の拡大である。例えば、三菱商事はコンビニ大手のローソンを子会社化(2017年)、また伊藤忠商事はユニー・ファミリーマートホールディングスを子会社化(2018年)している。
総合商社はコンビニ以外でもEV(電気自動車)、AI(人口知能)、デジタル、金融、農業(アグリビジネス)、エンターテインメントなどの新規ビジネスを拡大する構えであり、新たなビジネスモデルの構築を目指している。
総合商社でのキャリアは俗にいう「背番号制」で決まる。すなわち、新人で配属されたのが繊維部門であれば、定年まで国内外の繊維部門のポストを異動する。私の学生時代の友人も大手総合商社に入社し、機械部門に配属された。それから30年以上経過したが一貫して機械部門であり、現在はインドネシアに赴任している。ただ最近は部門を異動させる事例や早い時期に子会社に移動させる事例もあるようだ。総合商社の人事制度は,「背番号制」から少しずつ柔軟な方向に変化しつつあるのかもしれない。
総合商社は平均給与が高く、洗練されたイメージが強いためか就活生からの人気が集まり、入社のハードルはかなり高い。とくに英語力は高いレベルが要求される。このため、学生時代からTOEICなどの準備はしておいた方がいいだろう。入社後4~5年でTOEIC700点以上ないと海外駐在ができず、人事考課にも影響があるからである。英語ができなくても商社で活躍している社員はもちろんいる。しかし海外でビジネスを行ってこその商社である。ぜひ英語力(もしくは英語以外の語学力)を磨いて海外で活躍して欲しい。
エントリーシートや面接などでは、単に「海外で大きな仕事がしたい」と強調するより、総合商社が注力する新規分野で働きたい点をアピールすると、他の就活生との差別化が図れるかもしれない。例えば、最先端の農業を勉強して「アグリビジネスをやりたい」、あるいは「金融ビジネスを拡大させたい」などである。
繰り返しになるが、総合商社に入社するのは難関である。しかしチャンスはある。学生時代に自分を磨き、成長した自分を信じてトライしてみよう。