今回は、半導体製造装置業界から東京エレクトロンを取り上げる。
新人アナリスト時代(1987~1989年頃)は、半導体製造装置業界を担当していた。初めて書いた業界レポートは半導体製造装置業界だった。それは私の記念として今でも大切に保存している。もちろん、個別企業では東京エレクトロンをカバーしていた。
東京エレクトロンは半導体製造装置の商社からスタートしたが、私がカバーした頃はすでに我が国を代表する製造装置メーカーに成長していた。そのころの主要製造拠点だったTEL山梨の工場見学をしたこともある。最先端のクリーンルームなどを見て、「これはすごい」と感じたことを懐かしく思い出す。
東京エレクトロンの当時の業績は1988年9月期で売上高1,259億円、経常利益82億円だった。それから30年余が経過した直近の業績はどうだろう。2022年3月期の会社側業績見通しは、売上高1兆7,000億円、営業・経常利益で4,420億円となっている。2019年3月期に記録した過去最高益(営業利益3,105億円、経常利益3,216億円)を大幅に更新する予想である。30年前に比べ売上高で約14倍、経常利益で約54倍に成長することになる。加えて同社の株価も1988年は1株2,500円~3,000円ほどのレンジで推移していたが、足元の2021年4月から5月上旬にかけては5万円近い値がついていた。つまり、30年前に同社株を中長期投資で買い持ちしていれば、17~20倍の値上がり益を享受できた訳である。
東京エレクトロンの成長の過程を知るには、ちょうど2021年4月の日本経済新聞に東哲郎元社長の「私の履歴書」が連載されていたので、それを読まれるとわかりやすいだろう。商社からメーカーに移行していた時代やグローバル化にまい進した頃などが詳細に書かれているからである。
さて、現在の東京エレクトロンは、売上高で世界第3位の半導体製造装置メーカーであり、売上高海外比率80%超、世界の拠点数76の我が国を代表する超一流のグローバル企業である。とくに強みを持つのは、前回の業界編でも説明した通り、前工程の製造装置(一般にはWFE=Wafer Fab Equipmentと呼称される)である。とりわけ、紫外線(UV)に反応する薬液(フォトレジスト、感光剤)を塗布・現像するコータ/デベロッパといわれる装置では、世界シェアの91%を握っている。
さらに付け加えるならば、同社が高シェアを持つWFE市場の装置はコータ/デベロッパ以外にも、ドライエッチング装置(世界シェア28%)、成膜装置(37%)、洗浄装置(27%)がある。それぞれの装置の役割については、ここでは説明を割愛させていただくが、すべて前工程の主力工程で使用される。関心のある向きはぜひ同社HPなどで調べて欲しい。
半導体には好不況の波を繰り返す、いわゆるシリコンサイクルという経験則がある。同社もかつては赤字を余儀なくされ、社員の希望退職に踏み切ったこともある。しかし、私は今後多少の波はあっても中長期的に半導体の継続的な需要拡大が見込まれることから、東京エレクトロンをはじめとする製造装置メーカーも持続的な成長が続くと予想する。
最後に採用について触れておこう。これは同社の採用HPにも紹介されているが、東京エレクトロンは日本経済新聞が公表する冬の賞与(ボーナス)ランキングで主要上場企業438社のなかで1位(2020年冬、232万円)である。業績連動型の賞与であり、直近の決算から推定すると2021年冬は前年以上の賞与が期待できるだろう。2020年冬で2位のディスコ(190万円)とは40万円ほどの差があったため、同社は2021年冬のボーナスランキングでも1位が確実といえそうだ。
このように東京エレクトロンの社員に利益を還元する姿勢、社員の頑張りに報いるという姿勢は素晴らしい。社員の同社に対する誇り、仕事に対するモチベーションが一段と高まるからである。みなさんも同じ働くのであれば、給料の高い会社を選ぶだろう。もちろん、言うまでもないことだが、人生や仕事はお金だけで計ることはできない。しかしながら、先行き不透明な時代にあって、就職先企業の選択で生涯賃金に大きな格差が生まれる点は見逃せないポイントと考える。
メーカー志望のみなさんはぜひ半導体製造装置業界、そして東京エレクトロンに目を向けてチャレンジして欲しい。