副業を社内の制度として認めている会社に注目してほしいと思います。社員は副業することで新たなスキルを獲得し、視野を広めることができます。そうした人材を社内活性化につなげる狙いです。副業制度も人的資本経営の一つで、人材のクオリティ向上を通じて企業価値を高める意味があるのです。いくつか事例を紹介しましょう。
ロート製薬は、副業を2016年2月という早い段階で解禁して成果を出しています。同社の副業は「社外チャレンジワーク」制度として知られています。
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ロート製薬の社外チャレンジワーク制度
「社外チャレンジワーク」とは、本業を大切にしながら、土・日・祝日と就業後なら、ほかで業務を行ってもかまわないという制度。「社外チャレンジワーク」に挑戦することで、会社で与えられた仕事だけをするのではなく、自分自身で考えて行動し、社会に貢献できる働き方をする社員が増えると考えています。ロート製薬は2013年以降、食・農業や再生医療等の新規事業への挑戦を進めています。企業の枠を超えた働き方、そして社外の人と共に働くことで、社内では得られない大きな経験をする事ができ、本人の成長にもつながります。会社の枠を超えることで大きな成長につながり、自立・自走する人を育てることができると考えています。
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同社によれば、2021年12月現在で社外チャレンジワーク制度に参加した社員の数は延べ123名、このうち現在でも副業を継続している社員の数は52名ということです(出所:ロートの複業・兼務・社内起業 実践者レポート2022)。具体的な副業としては、美容WEBライターや大学講師、キャリアコンサルタントなどが紹介されています。
また化学大手の三井化学も2024年1月から副業制度を正式に導入しました。
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三井化学 プレスリリース(2024年1月31日)
三井化学、副業制度を正式に導入
~多様な働き方の促進を加速、2024年1月から適用開始~
三井化学株式会社(所在:東京都中央区、代表取締役社長:橋本 修)は、社員の多様な働き方促進を目的に2024年1月より副業制度を正式導入いたしました。
当社は、「三井化学グループ人材マネジメント方針」*¹に基づき、人事施策を通じた人的生産性の最大化および職務遂行を通じて得られる満足度(エンゲージメント)の最大化を目指しております。社員の多様な働き方に対応し、各人のエンゲージメントや組織としてのチーム力を維持・強化するため、「自主・自律・協働」を基本方針に、「新しい働き方」の実現を順次、施策として展開中です。その施策の1つとして副業制度を導入することで、社員が自主的に社外で多様な経験を積み、自身の視野拡大・能力開発に努めることを期待しています。
1.副業制度の概要
三井化学本体社員(国内在勤者)
※実務経験3年未満の社員等、一部対象者を除く
下記①~③を遵守の上で、副業の従事を認める。
①当社業務を主業務とし、当社業務に支障が出ない範囲で副業に従事すること
②多様な経験を積むことによる、能力開発、視野拡大、人脈形成に努め、副業を通じて得られた能力等を当社業務においても積極的に発揮すること
③当社社員としての体面を汚すことの無いよう、副業時も法令・良識に則って誠実に行動すること
2.副業制度に関するこれまでの経緯
当社では、2017年より「自主・自律・協働」を基本方針とする働き方改革を進めております。2017年から2019年にかけて主に「働き方の効率化」を目指し、超過勤務の削減、休暇取得の促進に力を入れてきました。そして、2020年からは「エンゲージメント向上」を目的に、テレワーク拡大や服装自由化、新業績評価制度など様々な施策を推進中です。
副業制度につきましては、社員の自主的な経験拡大と、能力開発による当社競争力向上を目的に、2021年1月より管理社員を対象としたトライアルを開始しました。その後、対象枠を一般社員まで拡大してトライアルを継続した結果、2023年12月時点で70件余の届出があり、副業実施者とその上司からのヒアリング等を通じて、自律的なキャリア形成に大きく寄与することが把握できたことから、2024年1月より副業を正式制度として実施することといたしました。
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ここにきてロート製薬や三井化学のように副業を社内制度として認める企業が増えています。最近では、三井住友銀行が2024年10月から、約3万人の全従業員を対象に社外での副業を認める副業を認めることを公表し、話題になりました。具体的には、「事前に申請し承認を得ることを前提に、月20時間まで他の企業との雇用契約を伴う労働ができるようになる」というものです。
副業を認める企業は業界によってばらつきがあるようですが、副業によって社員の競争力が高まれば、自社の企業価値向上つながるのは明らかです。副業を認める企業はこの先一段と増加するでしょう。
最後にリクルート社が実施した「兼業・副業に関する動向調査 2022」(調査期間は2023年1月21日~2023年1月22日)について紹介します。それによると、副業実施者は本業の満足度が高く、キャリアへの関心が高い傾向にあるということです。
■副業実施者の38.7%が本業に満足しており、本業・副業それぞれの経験が互いに好影響を与えている。
■副業実施者は未実施者と比べて自身のキャリアに関する関心が高く、従業員のキャリア自律を育むことで副業の推進につながる。
■副業の満足度が高い人は、「本業に副業の経験を還元できている」、「適切なアドバイスをしてくれる支援者がいる」傾向。
本業の満足度が高いということは、いわゆる仕事ができるクオリティ人材です。そういった社員は副業制度利用して、ますます個人としての価値を高めていくものと考えます。