志望企業を選ぶ際の指針となるのが就活の軸探しです。ただ大学3年あるいは4年になってもなかなか就活の軸が見つからないという学生も多くいます。そもそも就活の軸とは何でしょうか。簡単に言えば、みなさんがキャリアデザインの授業で教わったキャリアアンカー(米国のエドガー・シャイン教授が1970年代に提唱したキャリア理論。キャリアを形成する[=仕事を選択する]際にどうしても譲れない価値観)的なものと考えていいと思います。
例えば、あなたが女性であり男性優位ではない会社で活躍したいという軸があれば、すでに女性が活躍している、もしくは会社として女性活躍を推進している(例えば5年以内に女性管理職比率50%を目標している等)企業を探せばよいのです。
そこで本ブログ「就活は俺に任せろ」では、みなさんの就活の軸探しの一助になればと考え、今後10回ほどにわたって、最近の企業の動きについて人材面(採用、雇用、働き方)を中心に見ていこうと思います。一回目の今回は、新卒で入社した会社を辞めたとしても再び戻ることのできる制度、いわゆるアルムナイ(alumni=卒業生の意味)採用について考えてみます。
就職した会社で何年か働いたのちに、自己都合で退職する方は多くいます。その理由は様々ですが、①キャリアアップのための転職や留学、②親の介護、出産・育児、③配偶者の転勤、などが挙げられます。上述の退職理由は特段ネガティブなものではないと思われますが、これまで日本企業においては、いかなる理由であっても、退職すれば二度と戻れないという慣行が一般的でした。あいつは辞めた人間だからということで、事実上退職すれば復職できるチャンスはなかったのです。
ところが、近年は退職者の再雇用制度、いわゆるアルムナイ採用を積極的に取り入れる企業が増加しています。この背景には何があるのでしょうか。結論から言いますと、アルムナイを活用すること(ダイバーシティ)による企業価値の向上です。
アルムナイ採用を希望する人材は、「自社のことをよく知っていることに加え、他社での勤務や留学などいろいろな経験を積んで視野が広くなっている」と間違いなくいえます。つまりアルムナイを採用すれば、社内の活性化につながり、業績アップ(企業価値の向上)につなげるという、ちゃんとした理由があるのです。
具体例を紹介しましょう。明治ホールディングスの食品セグメントの中核子会社明治のケースです。同社は2020年4月1日付採用より、退職後も再就職できる「リ・メイジ制度」を導入しました。2020年1月23日付けのプレスリリースに制度の仕組みや導入の狙いが説明されています。
——————————————————————————–
株式会社 明治(代表取締役社長:松田 克也)は、広がるダイバーシティへの取り組みの一環として、当社を退職後も当社への再就職が可能な「リ・メイジ制度」を、2020年4月1日付採用より導入いたします。当社で得たノウハウや知見を有し、退職後に多様な経験や知識を培った退職者の再就職を行うことで、社内のさらなる活性化や、新たな価値創出を目指してまいります。
1.制度概要
(1)名称
「リ・メイジ制度」
※「リ・メイジ」という名称には、「リトライ」、「リスタート」等に含まれる「再び」、「繰り返し」という意味の「リ」と「メイジ」を組み合わせることにより、「退職者が再び当社で活躍し、新しい風を吹き込むとともに、当社自体も繰り返し成長していく」という思いを込めております。
(2)再就職時のフロー
①再就職希望者が、当社HPにある専用サイトに必要事項を入力
②採用選考を実施
③再就職
(3)再就職にあたっての条件
当社にて正規社員として3年以上勤務した後に退職した者
2.導入時期
2020年4月1日付採用より
3.その他
当社はこれまでも当制度に近い規程を設けていましたが、再就職にあたっての条件が限定的な内容となっておりました。広がるダイバーシティへの取り組みの一環として、今般新たな制度を導入し、社会の多様なニーズに貢献してまいります。
——————————————————————————–
いかがですか。明治は企業戦略として「リ・メイジ制度」の導入を決めたことがわかりますよね。明治以外にも、アルムナイ採用を導入する企業は増えていて、最近でも三菱UFJ銀行が2025年4月からアルムナイ採用枠(同行ではウェルカムバック採用と呼称)を設けることが明らかになりました。厳格な年功序列で知られた銀行業界も大きく変化していることがわかります。
みなさんも就活がスタートすれば多くの企業説明会に参加することになります。説明会の終わりごろにQ&Aコーナーがあるのですが、その場で「御社にはアルムナイ採用がありますか。もしくは検討されていますか」と担当者に聞いてみるといいでしょう。その会社の人材に対する考え方がわかるからです。
DeNAの創業者、南場智子さん(代表取締役会長)は著書「不格好経営」(2013)のなかで、「出戻りは絶対に許さない、という経営者もいる。賛否両論あるのだろう。もちろん個別判断だが、私はおおむね歓迎する。外を見て、視野を広げたうえでまた選んでもらえるならその判断は本物だし、DeNAのよさや課題を客観的に捉えて改革の旗ふりをしてほしい」と書いていました。
さすがですよね。今から10年前は企業経営にダイバーシティ、あるいはアルムナイ活用による企業価値アップという発想はない時代でした。南場さんは、その頃からアルムナイが貴重な存在であることに気づいておられたのです。私はDeNAの成長要因の一つに、アルムナイ採用があったのではないかと考えています。