半導体の製造過程では、(26)~(29)までみてきた半導体製造装置だけでなく、半導体材料も必要不可欠です。この半導体材料の分野でも日本メーカーは強みを発揮しています。
まず半導体用の土台となるシリコンウエハー製造では、信越化学工業が世界シェアの30%強、SUMCOが25%ほどを占めています。とくに最先端の半導体用のウエハーでは、この2社でほぼ独占しています。またレジスト塗布の工程で使用される感光材のフォトレジストでは、JSR、東京応化工業、信越化学工業、住友化学、富士フイルムホールディングスの5社で世界シェアの9割を握っています。なお、フォトレジストの市場規模(2021年)は、各種資料から推察すると約2000億円とみられます。
名前を挙げた材料以外でも各製造工程で存在感のあるメーカーは多くあります。関心のある方は、ぜひ調べてみてください。
私が半導体材料メーカーで注目するのはJSRです。JSRは創業40周年の1997年に今の社名に変更したのですが、それまでの社名は日本合成ゴムでした。祖業が合成ゴム(エラストマーといいます)事業だったからです。同社のエラストマー事業は、低燃費タイヤ向けの「SSBR」という合成ゴムが主力でしたが、2020年3月期と2021年3月期は赤字を計上するなど新型コロナの影響による自動車販売の低迷もあって、厳しい状況を余儀なくされていました。
これに対し同社は2021年5月にエラストマー事業を売却し、デジタルソリューション事業(フォトレジストなど)とライフサイエンス事業(バイオ医薬品の開発・製造受託など)の2事業を今後の収益の柱にすることを発表したのです。祖業を売るというのは、いろいろとしがらみがあったりして躊躇することもあったものと推測します。
しかしJSRのマネジメントは、今後の成長戦略として経営資源の「選択と集中」に取り組むことを決めたわけです。同社のCEOは2019年に就任したエリック・ジョンソンさんです。私は外国人CEOならではの経営手腕を発揮されたものと評価しています。祖業であっても将来性がないと判断すれば売却する。JSRにみられるような経営の大胆さが求められる時代です。