業界を知る 〜流通小売業界・百貨店〜

2019.02.07

流通・小売業界の第三弾として百貨店を取り上げる。我が国の百貨店の総売上高は1991年に9兆7,130億円(日本百貨店協会)とピークを付けた後は長期低迷が続いている。直近の2017年は5兆9,532億円と2年連続の6兆円割れを余儀なくされた。ピーク時から40%近くの市場が縮小したのである。
 
ただし、ここにきての大手百貨店の動向を見ると、東京・大阪など大都市圏の店舗は富裕層の消費が堅調なことに加え、訪日外国人(インバウンド)需要もあって堅調に推移している。一方で、地方店は人口減少や消費不振の影響で苦戦が続いている。ここ数年で閉鎖に追い込まれた店舗も多い。このような百貨店の大都市店と地方店の二極化は今後も続くと思われる。
 
もう一点、近年の百貨店で触れておきたい点がある。それは、大手百貨店各社で不動産戦略に差があることである。J.フロントリテイリングは2017年4月に松屋銀座店の跡地を複合商業施設「GINZA SIX」としてオープン、百貨店ではなく不動産賃料収入で稼ぐビジネスモデルとした。また高島屋も2018年9月にオープンした日本橋の高島屋新館では賃料収入がメインとなっている。この2社は不動産事業の営業利益に占める割合が増えている。他方で三越伊勢丹ホールディングスは従来と変わらず自主編集売り場の割合が大きい。
 
このように百貨店大手が不動産ビジネスに力を入れているのは、かつての稼ぎ頭だった衣料品、とくに婦人服販売の低迷が続いているからである。詳細は省くが、この10年から15年の間、百貨店各社は経営統合をはさみながら自主編集売り場を拡大しながらアパレル販売の回復を目指してきた。しかしながら、なかなか結果が出なかったため、J.フロントリテイリングなどは不動産ビジネスに力を入れることになったのである。
 
以上をまとめると、百貨店の将来展望としては(1)大都市圏の店舗に集約される、(2)不動産ビジネスが今後も拡大する、の二点となろう。
 
百貨店の募集職種としては、販売やバイヤー(商品の仕入れを担当)、販売促進ないし販売支援、情報システムなどに加え、店舗開発や不動産に関連する業務などもある。高島屋にはデベロッパーの東神開発という不動産専門の会社もある。不動産業界志望の学生も百貨店で不動産ビジネスを希望するというのも可能だろう。
 
次に百貨店志望の学生諸君に読んで欲しい本を3冊紹介する。
 
「未完の流通革命」奥田務 (2014)日経BP
かつて大丸松坂屋の経営統合を主導し、初代J.フロントリテイリングの社長兼CEOとして辣腕を振るった奥田務氏による書である。奥田氏の入社以来の足跡をたどりながら、大丸およびJ.フロントリテイリングがいかにして成長していったのかが記してある。奥田氏の百貨店に対する深い愛情を感じさせる一冊だ。J.フロントリテイリング志望の学生にとっての必読書であり、またJ.フロント以外の百貨店志望を志望する学生もぜひ手に取って欲しい。
 
「百貨店の進化」伊藤元重(2019)日本経済新聞出版社
百貨店ビジネスを伊藤先生の幅広い切り口で分析した大変勉強になる本といえる。百貨店は江戸時代に創業し、今も生き残っている不思議な業態であるが、今後は「経営課題の中心の位置に情報技術を置くべき」と強調する。学生諸君は面接で「最近読んだ本は何ですか?」と聞かれることだろう。その際、「百貨店の進化」を読みましたと言って自分の感想を述べればよい。面接はまず間違いなく通過すると思われる。
 
「誰がアパレルを殺すのか」杉原淳一、染原睦美(2017)日経BP
この本はアパレルがなぜ不況に陥ったのかを詳しく分析した良書である。大丸松坂屋百貨店の好本社長や高島屋の木本社長のインタビューなども掲載されており中身が濃い。
 
本稿を書いている途中の2019年1月28日(月)のNHKの番組「プロフェショナル 仕事の流儀」で大丸の北海道物産展のカリスマバイヤーが取り上げられた。百貨店バイヤーの仕事の醍醐味に触れることができる素晴らしい番組だったと思う。百貨店はこれまでもそうであったように将来も必ず生き残る業態と考える。みなさんも百貨店で存分に実力を発揮していただきたい。