今回は証券業界を取り上げる。ここにきて証券会社のサービスは多様化している。従来型証券会社では、1)個人投資家や機関投資家の株式や債券の売買注文を仲介するブローカー業務、2)証券会社自身が自己資金で株式・債券を売買するディーリング業務、3)企業が株式や債券を発行する際に証券会社が引受けて個人や企業に販売するアンダーライティング業務、4)新規公開にかかわる株式の募集および売出しを取り扱うセリング業務、の4つが主力ビジネスであった。
ところが最近では1999年の株式売買委託手数料の自由化などを経て、証券会社もリテール部門では株式よりも投資信託販売や保険販売、そしてラップ口座や積立投信といった顧客資産の残高によって手数料を得る資産管理型ビジネスに注力している。また法人向けのホールセール部門ではM&Aの仲介や資本提携の仲介といった投資銀行(インベストメントバンク)ビジネスに力を入れている。
現在の証券会社は3つのグループに大別される。一つ目は独立系大手の野村ホールディングスと大和証券グループ本社である。預かり資産や収益で業界のトップ2である。かつて日本には野村證券、大和證券、日興證券、山一證券という4大証券があった。しかし山一證券は1997年に経営破綻し、日興證券はシティバンク傘下にあったが、現在はSMBC日興証券としてメガバンクである三井住友フィナンシャルグループの証券会社となった。
そのメガバンク系証券(二つ目のグループ)にはSMBC日興証券のほかに、みずほフィナンシャルグループのみずほ証券、三菱UFJフィナンシャル・グループの三菱UFJモルガン・スタンレー証券がある。メガバンク系証券会社はグループの銀行や信託銀行などと銀証一体化を推進しており、銀行顧客の紹介を受けているほか、事業承継やプライベートバンキングビジネスを積極化させている。
三つ目はネット証券である。株式売買手数料の安さを武器に2000年代に入り急成長を遂げた。今では大半の個人投資家はネット証券で株式の売買を行っている。主な会社として、最大手のSBI証券をはじめ楽天証券、松井証券、カブドットコム証券、マネックス証券、GMOクリック証券などがある。
それぞれの会社に特長があり、楽天証券は親会社楽天とのシナジーを目指し、GMOクリック証券はFX取引に定評がある。マネックス証券は米国第6位のネット証券トレードステーションを保有しているほか、仮想通貨ビジネスに参入している。カブドットコム証券は三菱UFJフィナンシャルグループ系だが、2019年2月12日にKDDIの傘下に入ることが明らかになった。Auカブコム証券になるということだ。
証券各社の業績は基本的に株式相場動向に左右される。ただ先に述べたように、独立系大手やメガバンク系証券会社は資産管理型のビジネスを強化し、また投資銀行ビジネスを拡大することで、相場が悪くても収益を得られる体制作りを行っている。またネット証券も仮想通貨など新規ビジネスに注力している。仮にこの先株式相場の長期低迷が続いたり、リーマンショックのような出来事が起こったりしたとしても証券各社の業績悪化リスクは以前より減少しているのかもしれない。
ネット証券以外の証券会社は総合職採用で入社後は伝統的に支店でリテール営業を数年やることになる。その後は本人の希望や適性に応じて幅広い職種に異動する。リテール営業を続けるものもいれば、法人営業、ディーリング、トレーディング、IPO、コンプライアンス、M&Aなど投資銀行業務、証券調査、国際部、海外現地法人、本部(人事、研修、法務、総務)などに異動するものもいる。いずれも専門性が極めて高い職種である。証券マンにとどまらず世界を相手にするインベストメントバンカーやプライベートバンカーなど活躍できるステージは無限にある。