業界を知る 〜金融業界・生命保険〜

2019.08.07

今回は生命保険業界を取り上げる。生命保険会社は2016年で41社あり、業態・特徴別に5つに分類される。第一は伝統的業態の生保9社(日本、第一、明治安田、住友など)、第二は第三分野に強みを持つ生保10社(アクサ、アメリカンファミリー、オリックスなど)、第三は直販系の生保3社(アクサダイレクト、ライフネットなど)、第四はかんぽ生命、第五はその他生保18社(ソニー、プルデンシャルなど)である。
 
直観的に社数が多いなという印象を受ける学生の皆さんもいるだろう。実際に我が国は生命保険大国と言われており、その市場規模は約40兆円(年間の生命保険料ベース)である。これは米国に次いで世界第2位の規模であり、生命保険の世帯加入率は89.2%と高い(データはMS&ADホールディングス資料)。
 
直近の業績はどうか。日本生命や第一生命など大手保険会社の2019年3月期は最高益が相次ぐ好決算であった。本業のもうけを示す基礎利益は日本生命、第一生命、明治安田生命が最高益を更新し、住友生命保険も3期連続の増益だった。生命保険会社のもうけの仕組みは3つある。死差益(予定死亡率)、利差益(予定利率)、費差益(予定事業費率)である。簡単に言えば契約者からの保険料を貸付けたり、運用したりして稼ぐビジネスモデルである。2019年3月期は利差益で増益となった生保が目立った。マイナス金利の国内債券から外国債券や株式などに運用資金をシフトしたことが奏功した。
 
このように大手生保が低金利で運用難とされる時代に最高益を更新したのは素晴らしく、各社の運用力については高く評価できるだろう。しかし一方で、中長期の視点で考えると先行きは楽観はできない状況にある。
 
大和総研の内野逸勢主席研究員のレポート「20年後の生命保険業界の行方」(2017年10月13日)によれば、20年後を想定した場合の持続可能性について懸念される事項がいくつかあると指摘する。まず注目すべきは保有契約高の減少である。20年後に労働力人口が50%を下回れば、業界全体の保有契約高が2015年度より13%低下(約100兆円)するという。また2035年には現在の主要顧客層である団塊の世代のすべてが死亡平均年齢に達することに加え、2020年には世帯数がピークアウトする。
 
さらに内野氏は同レポートのなかで、小規模な生命保険会社を除いた大手26社の20年後の基礎利益マージン(2036年3月期の保有契約高に占める基礎利益の割合)を試算している。それによれば、保有契約高100兆円規模のすべての会社で黒字になったという。これは、100兆円以上の保有契約高を維持できる会社であれば生保業界の構造変化にも耐えることができるということを示している。
 
内野氏の分析を参考にすれば、今後生保業界は市場が縮小するなかで再編が起きる可能性が高い。都市銀行が三大メガバンクに集約されたように、日本でもメガ生保が誕生するかもしれない。とりわけ、大手生保各社は国内市場の成熟を見越して海外保険会社のM&Aを積極的に行っている。筆者の学生の頃は、生命保険会社へ就職するにあたって語学力はさほど必要ではなかったように思う。しかし、これからの時代は生命保険会社への就職は語学力が必須となるだろう。
 
生命保険会社の主な募集職種は、営業、海外、商品開発、資産運用などである。本稿では詳しく触れなかったが、超高齢化が進展するなかで新たな保険商品の開発も急務といえる。介護や認知症になった場合に備える保険、「トンチン性年金」(長生きすればするほど多くの年金を受け取ることができる)などのニーズが高まるのは確実だ。面接では「時代に合った保険商品を作りたい」と強調して、商品開発を志望するのもいいだろう。
 
最後に今後の生命保険業界のあり方、例えば商品、サービス、顧客サポート、営業手法など)を大きく変えるかもしれないインシュアテック(InsurTech)」について触れておきたい。インシュアテックはインシュアランス(Insurance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語であり、保険とITを融合したものだ。意味合いとしては、金融のフィンテック(Fintech)に相当する。
 
我が国の生保業界は従来から保守的でテクノロジー面で遅れているなどと言われてきたが、インシュアテックを取り込むことで、画期的な新型商品を売り出し、運用パフォーマンスが劇的に向上し、保険サービスの効率性を高めること等ができれば、今では想像もつかない生命保険会社に生まれ変わる可能性を秘めている。
 
すでに商品面では、住友生命の「Vitality」(バイタリティ)、東京海上日動あんしん生命の「あるく保険」など健康増進への取り組みに応じて保険料が増減する保険、インシュアテックの実験場と言われるスマホ上で申し込みが完結する少額短期保険(ミニ保険、保険金額の上限1,000万円以内、期間が2年以内)の利用が急拡大している。ミニ保険にはペット保険や死亡時の葬儀費用に充てる、家財道具が壊れたときの保障、といったものが代表的な商品である。とはいえ、2018年度のミニ保険の保険料収入は1,000億円規模に達したものと見られる。生保業界志望の学生諸君はインシュアテックの動きにも注目して欲しい。