今回は不動産業界を取り上げる。不動産業界は土地や建物などに関わる業界のことで、「開発業」(ビルや商業施設、ホテル、マンションなどを開発するデベロッパー)、「賃貸業」、「流通業」、「管理業」の4つに分類される。これらのすべてを行う企業は「総合不動産」と呼ばれる。そのなかでも大手は、三菱地所、三井不動産、住友不動産、野村不動産HD、東急不動産HDの5社である。
総合不動産大手にはそれぞれ特色がある。三菱地所は、三菱グループの総合不動産で丸の内ビルや新丸の内ビルなど丸の内界隈のビルの賃貸を基盤としているため「丸の内の大家さん」と呼ばれる。近年は丸の内に隣接する大手町や有楽町の地域一体開発を手掛ける。傘下には分譲マンション「ザ・パークハウス」を手掛ける三菱地所レジデンスや米NYを拠点に不動産事業を展開するロックフェラーグループがある。
三井不動産は総合不動産の最大手でビル賃貸を主力とするも分譲(分譲マンション、戸建て住宅)にも強い。ビル賃貸は日本橋地盤で、近年は八重洲、日比谷などで再開発を進めている。日本初の高層ビル「霞ヶ関ビル」(1968年)は同社が手掛けた。子会社三井不動産レジデンシャルが分譲マンション「パークホームズ」、戸建て住宅「ファインコート」を手掛ける。さらに三井不動産商業マネジメントでは商業施設「ららぽーと」や「三井アウトレットパーク」を手掛ける。なお、「ららぽーと」は海外進出も計画されており、2020年には上海に海外初の「ららぽーと」がオープンする。
住友不動産は東京中心のオフィスビル賃貸が主力であるが、分譲マンション(シティハウス、シティタワーなど)でも販売戸数で首位を誇る。2000年代からオフィスビルが拡大し、利益水準では三井不動産、三菱地所に肩を並べるところまできた。子会社には汐留や六本木でホテルを運営する住友不動産ヴィラフォンテーヌ、貸し会議室・イベントホールを運営する住友不動産ベルサールがある。同社は海外投資から撤退していたが、2019年7月にインド西部の大都市ムンバイでオフィスビル賃貸事業を行う方針であると発表した。
東急不動産ホールディングスは東急電鉄系の総合不動産大手。ビル賃貸が収益の柱であるが、管理(東急コミュニティー)、分譲マンション(ブランド名BRANZ)、不動産売買仲介(東急リバブル)、小売(東急ハンズ)など多角化企業の側面もある。東急不動産といえば東急電鉄とジョイントで渋谷駅周辺の再開発プロジェクトが進行中だ。筆者の勤務する大学も渋谷にあるため、再開発の工事現場や進捗を目の当たりにしている。2018年9月に開業した渋谷ストリームにはGoogleが入居したほか、2019年11月に開業する渋谷スクランブルスクエア東棟(最終の完成年度は2027年度)にはミクシィ、サイバーエージェントが入る。渋谷はIT企業の一大集積地として日本版シリコンバレーの色彩を濃くしているが、それを造りあげたのは東急電鉄と東急不動産ホールディングスである。
野村不動産ホールディングスは、住宅比率が高い点に特色がある。主力の分譲マンションは「プラウド」ブランドである。近年は新たなビル事業としてプレミアム賃貸オフィスビル「PMO」に力を入れている。
不動産業界には総合不動産大手5社以外にも特色ある優良企業が多い。オフィスビルでは、森トラスト、森ビル、ヒューリック、NTT都市開発(「ウエリス」ブランドの分譲マンションマンションも手掛ける)、平和不動産、ダイビルなどがある。分譲マンションでは、東京建物(ブリリア)、大京(ライオンズ)、タカラレーベン、ゴールドクレストなどがある。
不動産大手5社の業績については、2019年3月期決算で見ると野村不動産HDを除く4社が増収増益を記録した。オフィスビル賃貸が好調に推移したことが背景にある。今2020年3月期もオフィスビル賃貸のさらなる拡大が見込まれるため業績は続伸の見込みである。足元の業績は好調に推移している。
オフィスビルの好調は今後も続くのだろうか。東京都心では大型オフィスビルの竣工が続いているものの、2019年7月の東京都心5区のオフィス空室率は大量供給があったにも関わらず1.71%となり、過去最低水準の状況が続いている(データは三鬼商事)。企業の増床や移転のニーズは強く、少なくとも数年先までは低空室率が続くと見られる。
一方、新築分譲マンションについては、首都圏では駅徒歩5分以内の好立地物件については引き続き旺盛な需要が期待できるものの、それ以外の物件は販売価格の高止まりで一般のサラリーマン層の購買が追い付かず販売が長期化する傾向にある。全体として新築分譲マンション市場は2018年の契約率を見ても明らかに減速傾向にある。我が国はこれまで新築分譲マンション志向が強かったが、今後は中古マンションや賃貸マンション市場の人気が高まるのではないだろうか。
中長期で不動産業界の将来を考えると、やはり人口減少の影響は避けられない。総合不動産各社は上述した三井不動産や住友不動産のように海外でのビジネス拡大に一段と力を入れていくことになるだろう。
不動産会社の募集職種は、総合不動産で見ると営業、企画、開発、管理、海外部門などがある。今後海外でのビジネス拡大路線がほぼ確実なだけに海外部門を希望するのも面白いと思われる。なお、不動産会社でも分譲マンションや戸建て販売を手掛けている企業に入社した場合、自社物件を購入する際に社員割引(会社によって異なるが数%と言われている)の恩恵を受けることができる。例えば、5000万円のマンションで5%割引であれば4750万円で買うことができる。金額的にはかなりのディスカウントと言えよう。自社物件社員割引制度の存在は、不動産会社への就職を検討する際に念頭に入れておいて損はない。
最後に資格について。不動産業界を志望する学生は、在学中から宅地建物取引士(宅建士)の資格試験にチャレンジすることが望ましい。かなりの難関資格ではあるものの、不動産会社に入社すれば取得が事実上必須とされる。比較的時間に余裕のある学生時代に宅建士の資格を取得しておけば、不動産各社で内定を得る可能性は高いだろう。