業界を知る 〜建設業界〜

2019.10.10

今回は建設業界を取り上げる。みなさんはゼネコンという言葉を一度は聞いたことがあると思う。ゼネコンとは、ゼネラルコントラクター(総合請負業者)の略語である。ゼネコンは自治体や不動産デベロッパー、企業などの施工主から土木、建築工事を受注する。ゼネコン自体は工程管理に特化し、具体的な作業は専門を持つ(例えば、地盤・躯体・内装など)の一次下請け業者、二次下請け業者と契約し、工事全体のとりまとめを行う。
 
我が国には売上高1兆円を超えるゼネコンが5社ある。鹿島、清水建設、大成建設、大林組、竹中工務店である。これら5社をスーパーゼネコンと呼んでいる。規模的にスーパーゼネコンに次ぐ準大手ゼネコンも10社以上ある。スーパーゼネコン、準大手ゼネコンのいずれも特色や強みのある分野を持つ有力企業なので以下で紹介したい。
 
鹿島は、建築だけでなく土木にも強い建設業界の名門企業。ファミリー企業としても有名で役員には創業家一族が多い。日本初の超高層ビル「霞ヶ関ビル」を建てた。東日本大震災後は不採算案件が残り低迷していたが、ここ数年は首都圏の再開発案件や東京オリンピック関連の需要などで、業績は好調が続いている。代表建築として、日本橋高島屋三井ビルディング・日本橋高島屋S.C.新館、東京ミッドタウン日比谷、東京駅丸の内駅舎復元など。
 
清水建設は、企業本社など首都圏の民間建築に強みを持つ。コレド室町や国立西洋美術館などが代表建築。近年は銭函風力発電所(北海道小樽市、2020年3月竣工予定)を手掛け、またクリーンルームの空調制御システムを開発(2019年9月17日プレスリリース)するなど環境エネルギー関連にも力を入れている。あまり知られていないが、同社のルーツは宮大工(創業1804年)であり、今でも社寺建築・伝統建築に強みを持つ。例えば、西新井大師總持寺山門の耐震改修工事や浅草寺五重塔のリニューアルは同社の実績である。
 
加えて清水建設は、ダイバーシティ宣言を行い女性活躍推進や外国籍従業員の登用に力を入れている。私はおよそ10年前に建設担当アナリストの代理で同社の決算説明会に参加したことがある。担当役員をはじめ、同社の関係者や出席しているアナリストすべて男性でとても息苦しかったことを記憶している。HPを見た限りでは、この10年でかなり社風が変わったのではないかと推測する。
 
大成建設は、大手ゼネコンでは珍しく非同族会社である。新国立競技場やトルコ・ボスポラス海峡の海底トンネルなど国家的なプロジェクトに関わる事例が目立つ。横浜ランドワークタワーも同社の手によるものだ。
 
大林組は、関西発祥ではあるが、首都圏でも実績を積み上げている。代表建築に、東京スカイツリー、大手町プレイス イーストタワー、六本木ヒルズ森タワーなど。
 
竹中工務店の創業は400年を超えるが、非上場を貫いている。高級建築に強くブランド力を有する。自社の建築物を作品と呼ぶこだわりがある。主な建築作品には、あべのハルカス、東京タワーなど。通天閣の改修(免振化、屋外展望台新設)も同社が手掛けた。
 
準大手ゼネコンでは、長谷工コーポレーション(マンション建築トップ)、戸田建設(名門企業、大規模再開発で実績があるほか、学校や病院にも強い)、三井住友建設(三井不動産の分譲マンションとプレキャスト橋に強い)、西松建設(ダム、トンネルなど土木が強い)、東急建設(東急グループ、渋谷再開発を手掛けている)、などが挙げられる。
 
ゼネコンの受注に大きな影響を与える日本の建設投資額は1992年度の84兆円から2010年度には42兆円まで半減した。これに伴って、ゼネコン各社も赤字受注など「冬の時代」を経験することとなった。建設投資額は2010年度を底に回復に転じたものの、2018年度の見通し(国土交通省)は57兆円である。まだピーク時の7割弱の水準である。しかしながら、ゼネコン各社の業績は2017年3月期、2018年3月期と急速に上向き、過去最高益を更新する企業が続出し、絶好調とも言える状況になった。この要因は工事の採算が改善したためで、ゼネコン各社の売上高総利益率は軒並み10%を超えている。
 
直近のスーパーゼネコンの業績を見ると、2020年3月期は前年実績を下回る見込みである。旺盛な建設需要が続いており、工事の受注残は過去最高水準にあるが、労務費や資材費(H型鋼などの建築鋼材)の高騰をカバーできないからである。とはいえ、ゼネコン各社は東京オリンピックが終わっても相当な受注残があり、またリニア新幹線や大阪万博なども控えていることから、各社の業績が急速に厳しくなることはないだろう。
 
問題は長期の視点である。我が国での人口減少は避けられないため、10年後や20年後には確実に建設投資額は減っていく。海外での受注獲得に注力することも考えられるが、かつて大手ゼネコンは海外案件で不採算受注を余儀なくされたこともあった。内需が中心のゼネコンにあって、受注案件が減少する「冬の時代」はいずれ再び訪れる。ゼネコン各社は、海外ビジネスのさらなる拡大、あるいは建設以外で新たな収益源を見出す必要がある。
 
ゼネコンの募集職種は、文系では営業がメインとなる。営業の仕事は入札物件の情報をもとに設計や開発とプロジェクトチームを組んで、応札するかどうかを検討する。その際、発注者とやり取りするのが営業の仕事である。入札会場に出向くのも営業である。100億円を超える大型案件を落札するのは営業の醍醐味と言えよう。海外事業を希望するのもいいだろう。鹿島や大林組などでは海外事業を担う若手社員向けに国内外ビジネススクールへの留学支援制度もある。ビジネススクールで国際経営学の知識のみならず幅広い視野や人脈を作って世界で活躍してほしい。