業界を知る 〜建設機械業界〜

2019.11.05

前回は建設業界を取り上げたので、今回は建設機械業界を調べてみたい。個人的にはこの業界は思い出深い業界である。それと言うのも30代前半の頃、海外機関投資家相手のアナリストとして機械セクターを担当したことがあり、建設機械大手のコマツと日立建機をフォローしていた。その時に欧州の機関投資家を訪問する機会があった。私の準備した買い推奨銘柄の一つがコマツだった。現地の大手運用会社のベテラン日本株ファンドマネージャーの前でコマツの成長ストーリーをプレゼンしたことは今でも覚えている。数日後にロンドンの営業から、「フランスと英国の機関投資家から買い注文が入った」という連絡があったときは嬉しさがこみあげてきたものだ。
 
建設機械と言っても様々な種類がある。2018年度の国内建設機械出荷額の内訳を見ると、油圧ショベルとミニショベルで全体の48%を占め、建設用クレーン10%、トラクター11%、道路機械3%、補給部品13%などとなっている。
 
油圧ショベルでグローバル企業に成長しているのが前述したコマツ(世界2位、国内1位)と日立建機(世界3位グループ。国内2位)である。ちなみに世界1位はキャタピラー(米)であり、日立建機と世界3位を争っているのが、ボルボ(スウェーデン)、ディア&カンパニー(米)である。ボルボと言えば自動車を思い浮かべる学生も多いだろうが、建設機械でも世界的なブランドなのである。
 
油圧ショベルでコマツと日立建機以外の大手では、コベルコ建機(神戸製鋼所子会社)、住友建機(住友重機械工業子会社)がある。ミニショベルではクボタ(ミニバックホーで知られる)や竹内製作所が世界でも活躍している。フォークリフトでは豊田自動織機が世界1位、クレーンではタダノが世界2位クラスであり、国内ではタダノと加藤製作所のシェアが高い。また高所作業車では、アイチコーポレーションが国内トップシェアを誇る。
 
さて話をコマツと日立建機に戻そう。この両社は私が担当していた25年前頃はまだ国内売上高が5~6割以上あったと記憶しているが、その後は世界展開を推し進め、前述したように我が国を代表するグローバル企業に成長した。どれだけグローバル化が進んでいるのかをコマツの事例で説明しよう。
 
コマツの2019年3月期の売上高は2兆4,666億円(前期比8.8%増)であった。地域別の内訳を見ると戦略市場と位置付けるアフリカ5%、中近東1%、オセアニア9%、アジア14%、中国7%、CIS5%、中南米13%であり、伝統市場とする欧州8%、北米25%、日本13%となっている。日本の売上比率がわずか13%しかなく、ほぼ世界中にコマツの建機が売れている点に注目して欲しい。ちなみにコマツは現在、アフリカ市場への取り組みを強化している。アフリカは多種多様な鉱山資源が地下に眠っているとされ、鉱山機械や油圧ショベルの潜在ニーズが大きいからである。
 
コマツの構造改革を実現し、海外展開を拡大したのは「ダントツ経営」で知られる坂根正弘氏(社長在任2001年~2007年、その後同社会長、相談役、経団連副会長も務めた)である。坂根氏のマネジメントについては、著書「ダントツ経営」(2011年、日本経済新聞出版社)を読めばよくわかるのでぜひ読んでいただきたい。コマツに入社すると経営層を含む全社員が共有し継承すべき価値観として「コマツウェイ」という冊子がわたされる。これは私たちも同社のHPで見ることができるが、「コマツウェイ」を策定したのも坂根氏である。
 
次に業績を見てみよう。コマツも日立建機の直近はやや苦戦気味で、コマツは10月30日に発表した2020年3月期の中間決算で、通期の営業利益予想を3,370億円から2,790億円へ下方修正した。中国を含むアジアの建機、インドネシアやオセアニアで鉱山機械の販売が減少したからである。日立建機も同様の理由で2020年3月期中間決算は前年同期比2桁の減益を余儀なくされている。
 
しかしながら、私は建設機械大手の将来はきわめて明るいと楽観的に考えている。建設機械は世界の政治経済情勢の影響を受けるので短期的な需要に波があるのは止むを得ないことである。中長期の視点で見れば、世界需要は拡大基調が続くとみる。アフリカなど建機需要がこれから本格化する地域もある。
 
建設機械の募集職種は、文系では営業、調達、生産管理、経理、人事、法務など。コマツは全国採用と事業所採用の二つの採用ルートがあるので留意して欲しい。建機大手の求める人材はやはり海外で活躍することのできるグローバル人材だ。アフリカやCIS諸国、インドネシアなどでの勤務を経験したいと考えている学生は内定が近い。学生時代から英語力を磨き、TOEICのスコアを高めておくことも必要だろう。