業界を知る 〜工作機械業界〜

2019.12.19

今回は工作機械業界を取り上げる。工作機械は我々の身近なところで説明するとスマートフォン、家電製品、自動車、飛行機部品などほとんどの工業製品を構成する部品は工作機械によって作られる。工作機械にはその用途によって約300の種類に分けられる。日本工作機械工業会(日工会)のHPから引用するかたちで主な機種を紹介しよう。
 
まず工作機械の代表的な機種として旋盤が挙げられる。旋盤は円筒または円盤状の工作物を回転させて加工する機械である。フライス盤は聞いた方もいると思うが、これはフライス工具と呼ばれる工具を回転させ平面、曲面、みぞなどを加工する機械。さらにマシニングセンタ(MC)は中ぐり(ドリル工具であけられた穴の内面をより精度を高く所定の大きさに加工する)、フライス削り、穴あけ、ねじ立てなど多種類の加工を連続で行えるNC(数値制御、Numerical Control)工作機械である。
 
工作機械にはまだまだ種類があるが、ここまでで留めておこう。いずれにしても、工作機械は機械を作る機械「マザーマシン」と言われ、わが国のみならず世界のものづくりを支えてきた。ちなみに、2007年6月に発売されたアップルのiPhoneは、日本の工作機械メーカーの力がなければできなかったと言われている。
 
一方で世界の工作機械市場に眼を転じてみよう。日工会による「工作機械産業ビジョン2020」によると、工作機械の世界市場はピラミッド型に描けるという。ピラミッドの底辺の幅は市場の需要度である。ピラミッドの先端部分は高級機・高機能、高価格製品で宇宙・航空・医療関連用途である。この分野は欧州メーカーが強い。ピラミッドの中央部分は中級機・中価格製品で自動車や電気精密部品加工が主な用途である。この分野は日本メーカーが圧倒的に強い。ピラミッドの下の部分は低級機・低価格製品であり一般部品加工に使用される。ここでは台湾、韓国、中国メーカーが強い。
 
工作機械は我が国のみならず世界の製造業の設備投資動向の影響を受ける業種であり、日工会が毎月発表する工作機械受注は景気の先行指標とされる。日工会と同じように、日刊工業新聞社でも毎月主要7社(牧野フライス製作所、オークマ、OKK、東芝機械、ジェイテクト、ツガミ、三菱重工工作機械)の月次受注を公表している。
 
その工作機械受注であるが、昨年から減速傾向が続いている。2019年11月12日に日工会が発表した工作機械受注総額(速報)は、874億円(前年同月比37.4%減)と13ヵ月連続で前年を下回った。このうち内需は42%減の334億円(11ヵ月連続減)、外需は34.1%減の540億円(13ヵ月連続減)だった。2019年6月に好況と不況の目安とされる受注額1,000億円を割り込んでから未だに回復の兆しが見えない状況である。
 
この背景には2017年から2018年にかけての好況の反動もあるが、日中貿易摩擦の長期化や世界経済の減速により、国内外ともに自動車や電機・精密機械(スマートフォンも含まれる)、一般機械など主要な製造業の設備投資が手控えられている点が挙げられる。
 
とはいえ、工作機械受注はこれまで好況と不況を繰り返してきた歴史がある。大手工作機械メーカーの幹部は今回の受注減をさほど心配していないだろう。例えばリーマンショック直後の2009年の受注額は前年比3分の1となる4,118億円と急減することとなった。しかしひとたび製造業の設備投資意欲が盛り上げると引き合いが活発化し、受注が追い付かない事態となる。ちなみに2018年の受注額は1兆8,158億円(前年比10.3%増)と過去最高を記録していた。それほど好不況の差が大きい業界でなのである。
 
当面の工作機械受注は厳しいにしても、中長期の視点に立てばそう遠くない時期に活況を呈する局面がくるのは間違いない。それと言うのも、自動車では「CASE」(Connected)(Autonomous)(Shared/Service)(Electric)の流れが加速することに加え、次世代通信規格[5G]向けスマートフォンなどへの投資も伸びることが確実である。製造現場での省人化や無人化のニーズも拡大している。したがって、工作機械各社は次に訪れる活況に向けて、AIなどを活用した製品開発に力を入れているのが現況といえよう。
 
次に主な工作機械メーカーを紹介する。まずは世界最大級の工作機械メーカーDMG 森精機である。同社は日本でも総合工作機械大手であったが、2016年に欧州最大の工作機械メーカーのギルデマイスターとの完全経営統合を成功させ、グローバル企業に躍進した。グローバルHQは東京にあるが、開発・生産拠点や営業・修理/復旧サポート拠点は世界各地に拡大している。NC旋盤やMCに強く、製造現場に対して生産自動化システムの提案販売を強化している。
 
オークマはMCやNC旋盤、複合加工機などに強みを持つ工作機械大手で2018年1月に創業120周年を迎えた老舗企業。本社工場は愛知県大口町にある。私も機械セクターのアナリストだった頃は1年に2回取材に訪問していた。名鉄犬山線で行くのをとても楽しみにしていた。私が担当していた頃は不況の時で、同社も厳しい状況だったと記憶している。しかしながら現在では、世界中に拠点を持つグローバル企業に成長している。
 
ヤマザキマザックは非上場企業だが世界トップクラスに位置する。牧野フライス製作所は自動車、航空宇宙、医療、金型向けMCが強い。私が同社を担当したころは牧野二郎氏が著名な経営者であった。決算説明会などで工作機械業界について色々と教えていただいたことに感謝している。ジェイテクトは2006年1月に光洋精工と豊田工機が合併して発足。トヨタ自動車が22%の株式を保有する。自動車部品(ステアリング、駆動部品)、自動車・産業機械向け軸受(ベアリング=モノの回転を助ける部品。回転する軸を支えるので軸受と呼ばれる)などが柱である。
 
工作機械各社の募集職種は、文系では営業(国内・海外)、事業企画、調達、生産管理、経理、人事、総務など。上述したように好不況の差が激しい業界ではあるものの、世界のモノ作りを支える日本が誇る業界である。少しでも工作機械に関心を持った学生のみなさんは、ぜひMCやNC旋盤が実際に稼働する現場を見て欲しい。この業界で働きたいという気持ちが高まることだろう。