今回は食品業界からヤクルト本社を取り上げる。
【ヤクルト本社】
「ヤクルト」の歴史は京都帝国大学医学部で微生物の研究をしていた代田稔博士が1930年(昭和5年)、「ヤクルト」の基になっている乳酸菌シロタ株(L.カゼイ・シロタ株)の強化培養に成功したことに始まる。創業は5年後の1935年(昭和10年)で「ヤクルト」の商標で製造販売を開始した。代田博士は感染症で命を落とす多くの子どもに胸を痛め、病気にならないようにする予防医学の観点で微生物の研究を行っていた。「ヤクルト」を毎日飲むことでお腹が健康になったのだ。
その後、年月を経てヤクルト本社は日本を代表するグローバル企業に成長した。2018年現在、「ヤクルト」をはじめとする乳製品は国内・海外合わせて毎日4000万本が販売されている。また主力の「ヤクルト」をはじめとする乳酸菌飲料のほか、乳酸菌技術で自社開発した医薬品(抗ガン剤カンプト)や化粧品なども手掛ける。
次に同社主力の乳製品の販売方法について触れてみたい。主力の「ヤクルト」など乳製品の物流は国外と海外で異なる。まず国内は、(1)本社から全国に100社以上ある販売会社に商品が流れ、その地域販売会社がヤクルトレディ33,848人(2019年3月末)を通して宅配する。(2)本社が直接小売量販店(スーパーやコンビニなど)に商品を卸して量販店が販売する、という二つがある。乳製品の国内チャネル別販売比率はほほ半々である。
一方、海外も国内と同様に同社の海外事業所がヤクルトレディ(47,269人、2018年12月末)を通して販売する、もしくは量販店を通して店頭で販売する、の2つがある。2018年の年間累計の販売比率はヤクルトレディ42.5%、店頭57.5%(数量ベース)である。海外は国内に比べ利益率が高い。これは海外に日本のような地域販売会社がないことに起因する。
みなさんはもうお気づきだろうが、同社の販売方法はヤクルトレディによる宅配に特色がある。日本だけでなく、中国(主に広州や上海)やインドネシア、メキシコ、ブラジルなどに多くのヤクルトレディが自転車で家庭に「ヤクルト」を届けているのである。ヤクルトレディという独自のビジネスモデルが日本だけでなく海外でも成功したのは「ヤクルト」が説明商品であったことが大きい。ヤクルトレディから顧客が直接「ヤクルト」の効き目について説明を受け、実際に「ヤクルト」を飲んで整腸作用を体感するというサイクルで世界の人々に受け入れられたのである。
直近の業績について。ヤクルト本社の2020年3月期は売上高、営業利益ともに会社予想ベースで前年比微増もしくは横ばいにとどまる見通し。中国での販売が伸び悩んでいるようだ。新型コロナウィルスの影響もあるだろう。ただ営業利益予想の460億円は過去最高で、10~20億円程度未達になったとしても、私がアナリストとして同社を担当していた2006年~2011年頃の営業利益が200億円前後だったことを鑑みれば成長軌道に乗っていることが窺えよう。
2020年3月期のような一時的な伸び悩みはあるにしても、同社の成長は今後も継続すると予想する。ベトナムインドネシアなど人口が多い国々での伸びが期待できるからである。また日本など先進国では健康増進やガン予防、美容目的が大半と思われるが、そのような需要も堅調に推移しよう。
同社は2019年10月に国内の宅配ルートで新商品「ヤクルト1000」を発売した。これは、通常の「ヤクルト」に比べ、乳酸菌シロタ株が5倍程度入ったもので、「ストレス緩和」や「睡眠の質向上」をうたった機能性商品である。日経新聞などの報道によれば、「ヤクルト1000」は計画を上回る伸びが続いているようで、仮に全国での店頭販売に拡大すれば一段の売上増が期待できるだろう。
ではヤクルト本社のHPの採用情報を見てみよう。総合職コース事務系は営業企画業務(事業企画立案、販売促進企画立案など)、営業推進業務(販売会社支援活動、販売会社スタッフの教育・育成など)、管理業務(総務、人事、広報、経理など)、海外営業推進・管理業務(海外事業所での営業推進、販売促進策企画立案など)である。
一方、総合職海外系は以下のような応募資格がある。すなわち、「入社後早期からの海外赴任を希望し、その後のキャリアも海外勤務をメインに活躍したい」という意思を持っていることが前提であり、かつ以下のいずれかの条件(必須)を満たす学生に限るという。
その条件とは、(1)高校入学以降の期間で海外滞在経験が1年以上ある、(2)TOEIC800点以上または英語検定準1級以上、(3)外国人留学生で、かつ日本語を日常会話レベル(日本語検定N1レベル)で話せる、(4)海外大学に在籍している、である。ヤクルト本社の総合職海外系の職に就くにはこれほどハードルが高いのだ。しかしながら(2)のTOEIC800点以上または英語検定準1級以上は、海外経験がなくても1~2年間がんばれば十分可能だろう。もし私が学生だったならば総合職海外系にチャレンジしたいところである。