資格試験にチャレンジしよう(特別編)

2020.06.30

前回のブログは特別編として、新型コロナウイルスによる企業の採用活動の現状と見通しを考察し、それを踏まえたうえで就活中のみなさんへアドバイスをお届けした(2020年5月16日付)。ブログで述べたように、6月以降は企業の採用活動が一気に本格化し、本稿を執筆している6月末現在は採用の第一波が来ているようである。すでに内々定を得ている就活生のみなさんもおられるだろうが、全体としては今が正念場といえる。梅雨本番でじめじめした日が続くが、ぜひがんばって欲しい。
 
今回のブログも特別編として「資格試験にチャレンジしよう」と題して、資格取得の重要性について触れてみたい。仕事に直結する資格を持っていれば就職に有利なことは言うまでもないが、内定を獲得し卒業論文・卒業研究にほぼ目途が立ったという4年生のみなさんにもぜひ人生に役立つような難関資格にチャレンジして欲しい。入社後の社内評価や人事異動、さらには将来のキャリア計画、ライフプランに影響するからである。また大学1~3年のみなさんは、今後のキャリア計画を念頭に置きつつ、取得に複数年かかるような資格の勉強をスタートして欲しい。勉強のスタートが早ければ早いほど有利だ。
 
志望する業界で必要な資格、入社後に資格取得を義務付けられる資格、持っていれば一目置かれる資格、昇進・昇格に影響を与える資格、転職に有利に働く資格を大学4年次、すなわち就活時にすでに保有していることは企業から高く評価され、よほどのことがない限り第一志望もしくは第二志望の会社から内定を獲得することができるだろう。
 
資格をクリアしたことで、技能や専門知識はもちろんだが、合格までの努力が認められるのだ。面接で「この業界が好きなのでがんばります」などと言っている学生とは「結果」を出している点で雲泥の差がついている。それでは、どんな資格が有効なのだろうか。以下では、具体的な資格を紹介しながら、検討することにしたい。
 
【TOEIC®800以上もしくは英検®準1級】(すべての業界)
これは前々回紹介したヤクルト本社の総合職海外系の応募要件と同じである。海外経験がなくても、国内でコツコツ勉強して、このレベルに達した学生はどの企業からも評価が高い。今の日本は業界や企業規模を問わず英語のできる人材が求められる。国内マーケットだけではもはや成長できないからである。外資系企業だけでなく、日本企業でも英語はできて当たり前の世界になる。というか、もうなっている。「私は英語ができませんから」などと笑っていたような時代は過ぎ去ったのだ。
 
レベル的には上述したように大学4年春時点でTOEIC800以上もしくは英検準1級を目標にすればいいだろう。ただ入社が決まった後でも(もちろん入社後でも)、さらに精進を重ねTOEIC900、英検1級を目指してほしい。私の場合は勤務先の証券会社の社内選抜でビジネススクールへの留学が決まった。その時点ではTOEFL®520(PBT)の実力しかなかったが、スコア提出期限までの約3ヵ月間集中して勉強した結果600近くまでスコアが上昇した。TOEICは受験したことはないが、TOEFLやGMAT®(ビジネススクールで必要とされるスキルを測るテスト)を受けた経験からすれば、この手の試験で必要なのは慣れである。問題のパターンや問題文に出てくる単語はほぼ決まっているので、過去の問題演習を繰り返せばスコアは必ずアップする。
 
キリンホールディングスの磯崎功典社長の「私のリーダー論(上)」が日本経済新聞夕刊(2020年6月25日)に載っていた。これによれば、磯崎さんは同社のなかでは本流とされるコースではなく、出資していたフィリピンのサンミゲルの副社長などを経験されたという。しかし、その後キリンビール社長を経て現在はホールディングスの社長として活躍されている。これからは、こうした海外経験のある人材が一段と重用され、企業の経営幹部に出世していくと思われる。TOEICのスコアが高ければ、海外赴任のチャンスが高まるのは当然の話だ。この点でも学生時代から英語力を磨いておく必要がある。
 
【USCPA】(上場企業、海外展開企業など)
USCPAは米国公認会計士資格で、(1)FAR(Financial Accounting & Reporting):企業や組織を運営するための会計知識、(2)BEC(Business Environment & Concepts):経済学概論やIT概論、企業統治と管理会計、(3)REG(Regulation):アメリカ連邦税法とビジネス法規、(4)AUD(Auditing & Attestation):監査手続き、会計士としての責任、の4科目がある。
 
日本人の合格率は英語での試験ということもあってか、30%程度と低い。しかし、グローバル企業や外資系企業で経理の仕事を目指すのであればUSCPAはほぼ必須の資格と言えるだろう。USCPA は、USGAAP(米国会計基準)のみならず、IFRS(国際会計基準)の知識も求められるからである。東証上場企業では近年IFRSを適用する企業が急速に増えている(直近で東証上場企業の220社以上がIFRSを適用、時価総額ベースでみればIFRS適用企業の割合は40%程度とみられる)。このため、USCPAを持っていれば、将来キャリアアップの転職に踏み切るときも有利に働くだろう。
 
【簿記1級】(すべての業界)
経済学部や商学部、経営学部の学生で簿記2級の資格を保有している学生は少なくないだろうが、さすがに1級となるとあまりみかけない。合格率10%の試験なのでハードルが高いのだろう。しかし、簿記1級を持っていると履歴書の段階で他の学生と圧倒的な差がついている。業界を問わず志望企業への入社は叶えられるだろう。将来は、税理士や公認会計士を狙うこともできよう。
 
【証券アナリスト】(証券、資産運用、コンサル、メガバンク、保険、上場企業のIR職など)
証券アナリスト資格(CMA®)は一次試験と二次試験があるので、最短でも取得に2年かかる。この資格を持って実際にアナリスト業務もしくは関連業務(ファンドマネージャーやIR職など)に就いている人は感覚的に50%程度と思われる。しかし金融業界では、入社時からこの資格を持っていれば周囲から一目置かれ、かつ入社後すぐにアナリストやファンドマネージャー職に就くチャンスが広がることは間違いない。この資格は私も持っている。難易度は「やや難しい」とされるが学生でも十分取得可能と思われる。とはいえ、株式分析などでは数II(一部数III)レベルの問題も出題されるので、数学が苦手という方は高校のテキストで復習する必要があろう。
 
日本のアナリスト資格を取得した次のステップとして米国の公認アナリスト資格(CFA®)にチャレンジしてほしい。CFAは難易度が高く相当な英語力や専門知識がなければ合格できない。しかも3次試験まであるので、最短でも合格に3年を要するのだ。業界では米国のトップ30ビジネススクールのMBAに匹敵する資格とも言われる。それだけ実力が認められ、尊敬を集める資格なのだ。CFAを保有していれば大手金融機関や外資系金融機関、外資系コンサルなどで高年収、かつやりがいのあるポジションで活躍することができるだろう。ファイナンスの専門家として研究者に転身する道もある。
 
【宅地建物取引士】(不動産、金融機関、建築会社など)
宅地建物取引士、いわゆる宅建は国家資格で、この資格がないと不動産の売買や仲介の仕事をすることはできない。したがって不動産関連企業では取得が必須とされる。この資格試験を通して不動産取引の勉強をしたいという一般の方も多く受験するので、合格率は低い(2019年度の受験者約22万人、合格者約3万8千人で合格率17%)。しかし合格者に聞くと、宅建はすべてマークシート方式の4択問題なので、しっかり勉強すれば必ず受かるという。不動産会社を志望する学生であれば、入社前にこの資格を取得しておけば内定に一歩近づくと言ってよい。
 
これまで見てきた資格以外にも役に立つ資格はあるだろう。一方でせっかく取得したのにあまり評価されない資格もある。将来のキャリアプランを踏まえて、どの資格取得に注力するか見極めが必要だ。なお大学によっては、資格取得奨励金給付制度があるところもあるのでキャリアセンターで確認するとよい。自分の将来のキャリアプランを見据えて、資格取得に向けて頑張って欲しい。