今回は食品業界から日清食品ホールディングスを取り上げる。
【日清食品ホールディングス】
日清食品は、「チキンラーメン」や「カップヌードル」「ラ王」「出前一丁」「UFO」「どん兵衛」などでみなさんのとても身近にある食品会社だろう。日清食品ホールディングスの傘下には、中核事業会社である日清食品のほか、2006年にM&Aで子会社化した明星食品(主要製品は「チャルメラ」「中華三昧」「一平ちゃん」など)、乳酸菌飲料などを手掛ける日清ヨーク(「ピルクル」「十勝のむヨーグルト」)などがある。
日清食品と聞けば、創業者の安藤百福による「チキンラーメン」の開発物語をご存知の方も多いだろう。安藤百福は、やや古くなるがNHKの連続テレビ小説『まんぷく』の主人公のモデルとしても取り上げられた。「チキンラーメン」の開発について興味のある方は、”魔法のラーメン発明物語”(安藤百福、日経ビジネス人文庫)や”転んでもただでは起きるな!”(安藤百福発明記念館編、中公文庫)をぜひご一読いただきたい。
私自身は東南アジア企業担当アナリスト時代、インドネシア(即席麺で世界第2位の消費量)で主力の袋麺「インドミー」をもって国内90%の圧倒的なシェアを築いていた同国の食品最大手インドフード(Indofood Sukses Makmur Tbk)をフォローしていた。インドフードは日清食品との間で合弁企業ニッシンマス社を展開していたが、2014年に日清食品が合弁を解消し、インドネシアでの事業展開を加速させることになった。
一方で国内食品企業アナリスト時代は日清食品ホールディングス(持株会社化になったのは2008年)がカバレッジ銘柄ではなく、残念ながら同社を直接フォローしたことはない。しかし同社の二代目社長である安藤宏基氏の経営、マーケティング、海外展開、人材育成、業績および株価動向などについては一貫して注目してきた。
日清食品ホールディングスは2016年に公表した2020年度を最終年とする中期経営計画で時価総額1兆円(2015年度5,700億円)、海外営業利益比率30%以上(同11%)、ROE8%以上(同7.4%)を目標としている。このうち、時価総額1兆円は2020年6月30日に達成(これは単純に株価が倍になったということだ)、ROEも2020年3月期で9%となっており、すでに目標値をクリアしている。海外営業利益比率は若干未達の28%超の見込みながら、直近のわずか4~5年で海外営業利益比率が1割から3割近くに急拡大したのは見逃せない。同社は一気にグローバル食品企業に急成長を遂げたのである。
来年にかけて新たな新5ヵ年中期経営計画が策定される。私はどのような中計になるか大いに注目している。おそらく最終年となる2025年度の海外営業利益比率50%以上、ROE10%以上といった目標数値を打ち出してくるだろう。安藤社長の経営手腕もすばらしい。三代目で日清食品の社長を務める徳隆氏への禅譲という話も出ているようだが、その場合でも会長として三代目の経営をサポートされることになろう。日清食品ホールディングスの成長は今後も続くと予想する。
足元の業績について。日清食品ホールディングスは2020年8月5日(水)に2021年3月期第1四半期決算(IFRS)を発表した。それによれば、売上高1,205億円(前年同期比13.9%増)、営業利益174億円(同2倍)、純利益121億円(同2.1倍)と好調だった。新型コロナの影響で巣ごもり消費が増え、国内・海外(米国、ブラジル、中国など)ともに、「カップヌードル」や袋麺が伸びたという。通期の営業利益会社予想は435億円(前期比5.4%増)と手堅い数字となっている。今期はとくに利益面で計画を上振れする公算が大きい。
次に人材育成について。同社は世界で活躍できる人材を「グローバル・SAMURAI」と呼んでいる。安藤宏基社長の著書”日本企業 CEOの覚悟”(2016、中公文庫)にはそうした人材100人を特定しているとの記述がある(同書172ページ)。それから5年ほど過ぎた2020年5月12日に開催された2020年3月期の決算電話会議(アナリスト・機関投資家向け)社長プレゼン資料には、グローバル人材プールが190人になったとの記載があった。海外ビジネスの即戦力になる「グローバル・SAMURAI」が着々と増えているのだ。
同社は企業内大学など入社後の年代に応じ体系化された人材育成プログラムの存在でも知られる。「海外トレーニー制度」や「マーケティング・宣伝トレーニー制度」もある。入社すれば、いろいろな局面で勉強させてもらえる機会は多そうである。
日清食品グループを志望する学生諸君は、これまで紹介した3冊に加え、安藤社長の著書残り2冊、”カップヌードルをぶっつぶせ!”(中公文庫)、”勝つまでやめない!勝利の方程式”(中公文庫)もぜひ読んでおくこと。安藤社長の経営のやり方がさらに理解できると思う。最後に一言。ここまで海外展開や業績のことを中心に書いてきたが、同社はマーケティングでも超一流だ。マーケティングに関心がある学生諸君も思い切り活躍できるフィールドが同社にはある。