業界を知る 〜食品業界(明治ホールディングス)〜

2020.08.31

今回は食品業界から明治ホールディングスを取り上げる。
 
【明治ホールディングス】
明治ホールディングスは、我が国の食品企業で連結売上高1兆円をこえる最大手の一社である。同社のビジネスは大きく2つのセグメントに分けられる。
 
1つは、みなさんおなじみの食品だ。食品は事業子会社明治を通して、発酵デイリー事業(ヨーグルト、牛乳など)、加工食品事業(チーズ、バター、アイスクリームなど)、菓子事業(チョコレート、グミなど)、栄養事業(スポーツ栄養、乳幼児ミルク、流動食など)、海外事業(米国、中国など)に携わっている。日常生活を通して、明治の「ミルクチョコレート」「きのこの山」「おいしい牛乳」「プロビオヨーグルトLG21」「R-1」「銀座カリー」などを口にしている方も多いだろう。スポーツ愛好家には、「ザバス」や「ヴァームウォーター」で身近な存在かもしれない。また昨今話題になっているポビドンヨードを有効成分とする「明治うがい薬」も販売している。
 
2つ目のセグメントは医薬品(医療用)である。事業子会社Meiji Seika ファルマを通して、抗うつ薬「リフレックス」やアレルギー疾患治療薬「ビラノア」、統合失調症薬「シクレスト」がよく知られる。同社はこういった中枢神経系領域やアレルギー・免疫領域の他にも、感染症領域、がん領域、ワクチン領域、ジェネリック医薬品などを手掛けている。
 
医薬品では、ワクチン領域が注目されよう。明治ホールディングスと明治Meiji Seika ファルマは、2018年に熊本の一般社団法人化学及血清療法研究所の医薬品事業を子会社化(両社合わせて48%出資)し、KMバイオロジクス社を発足させた。Meiji Seika ファルマはワクチンの販売を手掛けていたが、KMバイオロジクスによってワクチン製造部門も手に入れることになった。
 
現在、新型コロナウイルスのワクチンの開発が各国の大手医薬品会社等で進んでいるが、Meiji Seika ファルマとKMバイオロジクスは英アストラゼネカ社が我が国に導入予定の新型コロナウイルスワクチンの国内安定供給に向けた協議を始めたという(2020年6月26日付Meiji Seika ファルマのプレスリリース)。アストラゼネカがワクチンの原液を提供し、KMバイオロジクスが製造、Meiji Seika ファルマが保管・配送を行う模様である。
 
またKMバイオロジクス自体も国立感染症研究所、東京大学医科学研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所との協業で新型コロナウイルスのワクチン開発に取り組んでおり、直近の2020年8月7日に厚生労働省「ワクチン生産体制等緊急整備事業」(第一次公募)の事業者に採択された。
 
この先、新型コロナウイルスワクチンの製造、そして国内販売が実現した場合の明治ホールディングスへの業績寄与がどうなるかは現時点でははっきりしない。しかしながら、同社が国民の健康のために全力をあげていること、言い換えれば社会に貢献している点に着目していただきたい。
 
ここまで見てきたように、同社には食品企業としてはきわめて大きなビジネスフィールドがある。そのきっかけとなったのが、2009年の明治製菓と明治乳業の経営統合だったと思われる。この経営統合により共同持ち株会社の明治ホールディングスが設立され、2011年にはグループ内の再編により食品事業会社明治と医薬品事業会社のMeiji Seika ファルマが発足したのである。
 
私自身は2009年の明治製菓と明治乳業の統合時に明治乳業の担当アナリストであった。2008年の9月11日昼頃に突然、明治乳業IR部門から連絡があり、同日夕刻に東陽町の本社で行われたアナリスト・機関投資家向け経営統合説明会に出かけたことを昨日のことのように思い出す。
 
この両社は事業分野で重なることころがなく、また源流も同じ旧明治製糖(現大日本明治製糖)の子会社に遡る(ここでは触れないが大正から昭和にかけての両社の歴史、明治乳業誕生の経緯は大変興味深い)。かつて兄弟会社だったからだろうか、私は両社の企業風土や社風がとても似ている印象があったため、この経営統合は成功するだろうとポジティブに捉えた。私以外にも、そのように評価したアナリストは多かったと記憶している。それから10年超経過したが、どうやら私を含めたアナリストの想定通りにシナジーが出ているようだ。
 
同社は2018年に中長期の経営計画「明治グループ2026ビジョン」を策定した。それによれば、数値目標として営業利益成長率1桁台半ば以上(年平均)、海外売上高比率20%、ROE10%以上を掲げている。さらに重点方針として、(1)コア事業(食品ではヨーグルト・チョコレート・栄養食品、医薬品では感染症・ワクチンなど)での圧倒的優位性の獲得、(2)海外市場での成長基盤の確立(中国、東南アジア、米国)、(3)健康価値領域での新たな挑戦、(4)社会課題への貢献、の4つを打ち出している。
 
本ブログでは、(4)の社会課題への貢献に焦点を当ててみたい。社会課題への貢献は「明治グループ2026ビジョン」のなかのサステナビリティビジョンの方針として定められている。具体的には、明治グループが事業を通じて社会課題の解決に貢献し、人々が健康で安心して暮らせる「持続可能な社会の実現」を目指すという。その取り組みとして、①こころとからだの健康に貢献(健康食品の提供、食育など。先に取り上げた新型コロナワクチンの開発もここに入る)、②環境との調和(CO2排出量の削減、水資源の確保、地球生態系の保護など)、③豊かな社会づくり(多様性の尊重と人材育成、人権の尊重など)、を挙げている。
 
これらの取り組みを進めるため、同社は2019年10月にサステナビリティ推進部を設置し、「持続可能な社会の実現」に向けて、グループ全体のサステナビリティ戦略を立案・推進している。同社HPに開示されているESGミーティング資料「サステナビリティの取り組み」(2019年12月17日)によれば、脱炭素社会、水資源の確保、循環型社会の実現、トレーサブルカカオの拡大、認証パーム油への100%代替などを目指し、すでに工場への太陽光発電設備の導入を進めているほか、RSPO認証(マスバランス)を菓子、アイスクリーム、乳幼児ミルクで取得している。
 
加えてガバナンスの面でも同社にはCSO(Chief Sustainability Officer)というグループのサステナビリティ戦略や活動を統括するポジションを置いている。CSOは取締役専務執行役員が担当しており、CEOやCFOと並ぶ上級マネジメント職である。こうした同社のESGを意識し、SDGsに前向きな企業姿勢は高く評価すべきだろう。
 
最後に採用について。同社は事業会社明治とMeiji Seika ファルマの両社で採用を行っている。文系では事務(経理・人事・総務・法務・情報システム・物流)や営業(営業・マーケティング・商品企画)がメインとなる。同社はSDGsの取り組みの一つとして上述したように「多様性の尊重と人材育成」を掲げている。そのなかで2026年度までに女性管理職10%以上(2018年度3.1%)、女性リーダー420名以上(同171名)に引き上げる意向である。明治とMeiji Seika ファルマの入社を希望する女子学生のみなさんは、それが叶えば将来活躍できるチャンスはとても大きい。チャレンジする価値は十分にある。