業界を知る 〜電子部品業界(日本電産)〜

2020.10.23

今回は電子部品業界の個別企業を掘り下げていこう。
 
【日本電産】
最初に取り上げるのは世界一のモータ事業を誇る日本電産である。同社はグループ企業とともに『精密小型から超大型までの幅広いラインナップを誇るモータ事業を中心に、「回るもの」「動くもの」に特化したモータの応用製品・ソリューションも手掛けています』(同社HP企業概要)というモータ専業メーカーである。
 
モータは生活のあらゆるところに使用されており、逆にモータがつかわれてない製品を探すのが難しいくらいだ。例えば、我々の身近なところでは、パソコンのHDD、スマホ(スマホが振動するのはモータが動くから)、ロボット掃除機、冷蔵庫、エアコン、デジカメなど。また自動車にも電動パワステ用モータなどが搭載されており、EV化の流れで車載用モータの採用点数が急速に増えている。
 
同社は世界一のシェアを誇るモータが多いが、とくに注目したいのは、1979年に実用化した「ブラシレスDCモータ」である。詳細な説明は割愛するが、ブラシによる機械的な接触を取り除いたことで、ブラシの摩耗がなくなり、メンテナンスフリーになったことが画期的な技術だった。加えて、「ブラシレスDCモータ」は小型化や効率性が高まったことで、ハードディスクの直接駆動方式が実現したのである。コンピュータの小型化は日本電産の「ブラシレスDCモータ」の貢献によるとことが大きい。
 
さて日本電産といえば、創業者永守重信氏(代表取締役会長)に触れない訳にはいくまい。同氏のサクセスストーリーは同社HPトップメッセージのところに「太陽よりも熱い男」と題したマンガがある。マンガなので読むにはそれほど負担はかからないだろう。ぜひ一読して欲しい。私はマスコミ等からの取材で、「注目する企業経営者を何人か出して欲しい」と聞かれた時には、永守重信氏を挙げることにしている。永守会長の経営手腕については言うまでもないが、永守氏の考え方が私の「腑に落ちる」からである。
 
みなさんは、まず1998年に書かれた『「人を動かす」人になれ!』(三笠書房)を読んでいただきたい。とくに日本電産志望でなくてもよい。マネージャー、課長、部長、取締役など入社した会社で上を目指す方には必読だろう。永守会長はM&Aなども積極的に行って成長を加速させてきた。この本には永守会長の経営哲学のエッセンスが詰まっている。
 
とくに永守氏はこの本を書かれた1998年当時で能力給「大きな成功体験には大きな報酬を」の重要性を述べられている。この頃の日本経済はまだ年功序列の世界がはびこり、会社の収益に大きく貢献した社員にボーナス等で報いていたのは証券会社ぐらいではなかったか。ちなみに、2018年に開催された平昌冬季オリンピックの女子スピードスケートで2つの金メダル(女子団体パシュート、マススタート)を獲得した高木菜那選手は子会社の日本電産サンキョーの所属だ。永守会長は早速、報奨金4千万円を渡し、3階級特進で係長に昇進させた。これなども、永守氏にすれば高木選手の努力と結果に報いた好例といえよう。
 
次にみなさんに読んでいただきたい永守会長の本は、2005年に書かれた『情熱・熱意・執念の経営』(PHP研究所)である。これまた永守氏の経営論が濃縮された本で、学生はもちろん、社会人や公務員にも読んで欲しい一冊だ。その本のなかに、「混血は美男美女をつくる」と題した一文がある。それによれば、同社は転職者の知識、ノウハウ、経験とプロパー社員の若々しいエネルギーが一つになったときに同社のパワーをフルに発揮できると結ばれている。今でこそダイバーシティという言葉も一般化してきた感はあるが、永守氏は2005年から経営感覚としてダイバーシティに効果があることを理解しておられたのだ。
 
その永守会長がいよいよ大学経営・大学改革に乗り出した。京都先端科学大学である。今の大学では社会に必要な人材を育成していないという危機感が背景にあり、それならば自分でやろうということだ。永守氏は、「問題の根源は、知識偏重、偏差値偏重」にあるとして、「日本が今、閉塞感に陥っているのは、自分から動く人間、リーダーがいないから。立派な大学を卒業したという理由だけで重宝するのはやめるべきだ」と強調する。こうした議論には私も納得できる点が多々あり、我が意を得たりという気分にもなる。永守氏の教育論や京都先端科学大学について知りたい方は、「永守重信の人材革命」日経BP(2020)を読むといいだろう。
 
業績について。2021年3月期(IFRS)は会社計画の売上高1兆5,000億円(前期比6.8%減)、営業利益1,250億円(13.3%増)は達成できよう。コロナ禍が早期に収束に向かえば、業績予想の上振れも期待できる。売上高が減っても利益が出やすい体質になってきた。将来的に同社がさらに飛躍すると思われる要因はいくつかある。同社はそれを5つの大波がくるとしている。5つの波とは、(1)省人化の波、(2)5G&サーマルソリューションの波、(3)脱炭素化の波、(4)デジタルデータ爆発の波、(5)省電力化とコロナ後の波、である。今後のM&Aとも相まって、同社は成長軌道が続くとみる。
 
日本電産およびグループ企業に就職すれば、永守会長から直接お話を伺うチャンスはあるだろう。もし、エレベータや廊下ですれちがったりしたときはチャンスを逃さず勇気を出して話しかけてみるとよい。忙しいなかでも、必ず対応してくださるはずだ。