業界を知る 〜電子部品業界(日東電工)〜

2020.12.16

今回は、電子部品業界のなかから日東電工を取り上げる。
 
【日東電工】
私はアナリストとして日東電工を直接カバーしたことはない。しかし独立系リサーチ企業のエクイティリサーチ部長をしていたころは、発行するすべての企業調査レポートのコンテンツやクオリティ、コンプライアンス等のチェックを行っていた。カバレッジ数は200社程度あったと記憶している。その当時から日東電工を担当するアナリストの執筆したレポートにとりわけ注目していた。同社の製品や成長戦略が私に強いインパクトを与えたからである。それ以来10年以上にわたって日東電工の業績や株価動向について一貫して高い関心を持ってウオッチしている。
 
読者のみなさんは日東電工をご存知だろうか?基本的にはBtoB企業であり、社名は聞いたことがあるけれども、あまり詳細に知っている方は少ないだろう。一部のBtoC子会社(ニトムズ)で家庭用フロアクリーナー「コロコロ®」を取り扱っているので、「あぁ、あの会社か」と頷かれる方もおられるだろうか。
 
実は日東電工は日本を代表するすごい会社である。同社は粘着技術、塗工技術、高分子合成等の技術で液晶テレビやスマホ用の偏光板および保護フィルム、自動車関連分野(塗膜用保護フィルムや各種粘着テープなど)、住宅・建材分野(防水・断熱・防音・気密などを実現する粘着テープなど)、環境関連(海水淡水化や排水処理用の逆浸透膜など)、さらに医療用(核酸医薬品の原薬合成、粘着技術を応用した経皮吸収医薬品など)といった、きわめて多岐にわたるハイエンドの製品群を誇っている。同社は、およそ70業種に13,500種の製品を供給しているとされる。
 
こうした製品は競争相手のいない世界的なニッチ(隙間)市場で展開されており、同社の多くの製品が世界シェアトップである。これが同社の掲げるグローバルニッチトップ™戦略だ。ちなみにグローバルニッチトップ™は商標登録されている。同社の説明では「成長(変化)するマーケットにおいてグループ固有の技術を活かすことができ、かつ優位性を発揮できるニッチな分野へ経営資源を投下する独自の集中・差別化戦略がニッチトップ™戦略」としている。
 
加えて、各国・エリアの市場において、特有のニーズに応じた製品を投入してトップシェアを狙うのがエリアニッチトップ®戦略である。どちらにしても、まるでハーバード大学ビジネススクールのマイケルポータ―教授が書かれた企業戦略論のテキスト”Competitive Strategy”や”Competitive Advantage”に同社の事例が出てくるような感じがするだろう。いや実際にポーター先生がテキストを書かれた約30年前に同社が現在の企業規模であったら必ずテキストにケースとして紹介されていたのではないか。日東電工は現実にグローバルニッチトップ™戦略やエリアニッチトップ®戦略をもって世界で競争優位のポジションを築いているのだ。
 
ざっと日東電工の概要に触れておく。2020年3月期(IFRS)の売上収益のセグメント別内訳は、インダストリアルテープ(スマホ・電子部品向け、工業用両面接着テープなど)41.2%、オプトロニクス)ディスプレイ、タッチパネル用各種工学フィルムなど)51.7%。ライフサイエンス3.5%である。またエリア別売上収益は、日本22.5%、米州9.0%、欧州5.5%、アジア・オセアニア63.1%である。1961年に初めて海外に進出し、従業員3万人のうち約70%が海外で働いている。日東電工もまた最先端のグローバル企業である。
 
業績について。同社は2021年3月期第1四半期決算で通期業績予想を売上収益6,750億円(前期比8.9%減)、営業利益640億円(8.2%減)としていたが、10月末の中間決算発表に合わせ通期予想を売上高7,150億円(3.5%減)、営業利益750億円(7.6%増)にそれぞれ上方修正を行った。予想以上に回復が早い印象を受ける。パソコン、タブレット用偏光フィルムなどが伸びたようだ。ディスプレイ市場の好調が背景にある。コロナ禍が収束に向かえば、同社業績もそれにつれて一段の拡大が期待できよう。
 
Nittoグループ統合報告書(Integrated Report)2020は、同社を知るうえでとても参考になる。そのなかに社外取締役座談会が掲載されている。そのなかで八丁地隆社外取締役(元日立製作所代表執行役 執行役副社長)は、「Nittoは分野ごとにSDGsやESGのフィールドでトップになろうという人が必ずでてくる企業です。長期的に行うなかで重要なのは、そこを担う多様な人材をいかに育てるかだと思います。もう一つは、グローバルにベストな人財を適材適所に配置すること。社外取締役の役割としてもこういった課題に光をあててインスパイアさせるような存在でありたい」と述べている。
 
日東電工はニッチな製品分野に焦点が当たることが多い。その点は本当に素晴らしい。しかし目立たないとは言え、統合報告書の社外取締役座談会を読んだだけで、同社のガバナンスは超一流と感じる。