業界を知る 〜トイレタリー・化粧品(ユニ・チャーム)〜

2021.02.12

今回は、トイレタリー・化粧品セクターのなかからユニ・チャームを取り上げる。

 

【ユニ・チャーム】

ユニ・チャームは乳幼児・大人用紙おむつ、生理用ナプキン、タンポン、ペットケア商品などを手掛ける。私は2010年前後に同社担当アナリストであった。

 

最初にリリースしたレポートは2009年5月11日付けで、「中長期の成長ポテンシャルはきわめて大きい」とのタイトルで、「同社の手掛ける不織布・吸収体製品は、世界的な需要拡大期に入っている。とりわけ、新興国では経済発展に伴う中間層の増加で、生活の質向上が急速に進んでいる。こうしたフォローの風を受け、少なくとも5~10年程度先まで同社業績の拡大が続く可能性が高い」とサマリーに書いていた。同社をフォローした期間は3~4年とそれほど長くはないが、その間の株価レーティングはすべて「買い」(ポジティブ)にしていたと記憶している。

 

それほど証券アナリストとして同社および外部環境等を調査して中長期の成長力に絶対の自信があったのだ。実際に同社は今日に至るまで高成長を持続している。営業利益ベースでみると、2009年3月期(日本会計基準)450億円だったのが、直近の2020年12月期(IFRS)のコア営業利益は会社計画の1,000億円(前期比11.4%増)を上振れて着地したもようである。

 

この先についても同社は成長軌道が続くと予想する。日本経済新聞(2021年1月6日朝刊15面)の記事「経営者が選んだ注目銘柄2021 ユニ・チャーム」によれば、同社はこれまで海外収益の柱であった紙おむつなど「ベビーケア事業」の投資を縮小し、生理用品を中心とする「フェミニンケア事業」の投資を拡大する。中国の紙おむつ市場の競争が激化していることを受け、高単価・高付加価値の生理用品で収益を拡大する方針である。これは中国の中間層の所得向上に合わせた戦略で、市場の変化に柔軟に対応した施策といえよう。

 

ユニ・チャームといえば、すぐに創業者の高原慶一朗氏と息子で現社長の高原豪久氏が頭に浮かぶ方も多いだろう。高原慶一朗氏は1962年(昭和37年)に米国のスーパーで生理用ナプキンを発見し、日本でこの事業をやろうと決めたという。経営者としての大きな転換点だったと述懐されている。

 

高原慶一朗氏の著書に「賢い人ほど失敗する」(2003年、PHP研究所)がある。同氏の人生訓をまとめたもので、我々が生きる上でとても参考になる。私も仕事がうまくいかないときや苦しい時はくり返しこの本のページを捲ってきた。ちなみに、本書の56~57ページに先に挙げた米国のスーパーでの生理用ナプキンとの出会いが掲載してある。

 

米国スーパーでの出会いによる読者への教訓として、『人生を変える決定的瞬間。それはだれにも一度は訪れ、しかし何度も訪れてはこない。その瞬間を逃さず、自分を変えるチャンスにしよう』と慶一朗氏は強調する。私などは年なので、これからそうした瞬間が訪れるチャンスは少ないだろう。だが読者のみなさんは若い。これからの人生でそうした決定的瞬間は必ず訪れる。ぜひ、これからの人生で大きなチャンスを生かして欲しい。高原慶一朗氏に関心のある向きには、「やる気 やるチャンス やる力」(2000年、日経ビジネス人文庫、初出は1997年日経BP)もお薦めする。

 

2001年に創業者慶一朗氏の後を継いで社長に就任したのが息子の高原豪久氏である。いわゆる二代目だ。豪久氏が社長に就任した際のエピソードがおもしろい。これは豪久氏の著書「ユニ・チャーム 共振の経営」(2014年、日本経済新聞出版社)に出てくる。豪久氏の新社長就任が決まる2001年6月の株主総会の朝、慶一朗氏は豪久氏に「お前のせいで株価が下がるんじゃ」と鬼の形相で怒鳴りつけられたという。創業者の迫力を感じることができよう。

 

その豪久氏が社長になって、ユニ・チャームは海外展開の成功もあって、業績は拡大が続き、株価は右肩上がりの上昇が続いて今日に至っている。豪久社長のリーダーシップによる海外展開については、前掲書「ユニ・チャーム 共振の経営」に詳しく書かれているのでここでは触れない。また豪久社長の別の著書に「ユニ・チャーム式 自分を成長させる技術」(2016年、ダイヤモンド社)がある。これは若手ビジネスマン向けに書かれた本で、大学生のキャリア教育を担当している私にも大変参考になる良書だ。学生のみなさんもぜひ手に取ってほしい一冊である。

 

最後に豪久社長のグローバル人材についての考え方を紹介しておこう。これも「ユニ・チャーム 共振の経営」に書かれている。同氏の考えるグローバル人材とは、「自社の風土・文化を体現し、どのような土地においても、自分で考え、自らが率先して行動し、現地に自社の風土・文化を再現できる人物」という。そして、この人物像に当てはめると、必然的に海外に派遣する社員は、社歴20年を超える40代のエース級社員になり、10年は異動させないという。

 

40代から50代の10年間、海外ビジネスの第一線で腰を落ち着けて活躍したいという覚悟のある学生のみなさんはぜひユニ・チャームにチャレンジして欲しい。豪久社長から教わることは多々あることだろう。