どの会社にも企業理念が存在します。企業理念とは、全社員が共有する「基本的な考え方」を表しています。言い換えれば、「どのような会社でありたいか」ということでもあるでしょう。毎日の朝礼時や新年の行事、入社式などで企業理念を全員で唱和する会社は多いと思います。
また、近年とくに注目されているのがパーパス(Purpose)経営です。パーパスを直訳すれば、(社会における)存在意義ということになります。京都先端科学大学の名和高司教授は著書“パーパス経営”のなかでパーパスを企業の「志」と定義します。パーパスとは「Me」でも「You」でも「They」でもなく「We」でなくてはならないとし、企業の思いと社会の思いが同心円を描くことが鍵になると指摘しています。
みなさんがいろいろと企業研究をする時に、HPなどで企業理念やパーパスを知ることになります。その際に、「この企業の企業理念には心から共感できる」と思うことができれば、躊躇なくその企業にチャレンジするべきでしょう。企業理念に共感できる何らかの体験などのエピソード(読書などでも可)があれば「なぜ共感できるのか」についての説得力が増すと思います。そうすれば、入社後に「私の思っていた会社とちがう」などといったこともなくなります。よって、企業理念やパーパスを就活の軸にするのはかなり有力であると私は考えます。
企業理念は業界によって様々です。例えば、小売業であれば顧客第一、製造業であれば技術中心の企業理念を掲げている企業が多く見受けられます。以下ではいくつかの企業理念の事例を紹介します。まずはマヨネーズ・ドレッシングの国内トップ企業キユーピーの企業理念(社是、社訓)です。
社是
楽業偕悦(らくぎょうかいえつ)
志を同じくする人が、仕事を楽しみ、困難や苦しみを分かち合いながら悦びをともにする
社訓
・道義を重んじること
・創意工夫に努めること
・親を大切にすること
キユーピーは私が証券アナリストとして担当した企業です。その経験を踏まえて言えば「親を大切にすること」が社訓にあるのは、いかにもキユーピーらしいなという印象を受けます。
こんなことがありました。キユーピーの会社訪問の際、本社に到着する少し前に雨になり、全身が濡れたことがありました。すると受付の方は自然にタオルを出して「どうぞ使ってください」と新品のタオルを手渡してくださったのです。今から思えば、キユーピーの社訓が従業員に浸透していたんだなと思います。
ちなみにキユーピーは、「親を大切にすること」について、「親孝行のできる人とは、人の好意をありがたく感じ、それに報いることのできる人です。そういう人の周囲には、また好意を持って接してくれる人が集まり、その会社はおのずから発展するはずです」と述べ、これは誠実な仕事をするための社訓ですと述べています。
次に警備サービス大手の綜合警備保障(ALSOK)の企業理念(経営指針)を見てみましょう。
経営指針
- 経営の基本精神
何事にも、常に感謝の心を忘れない「ありがとうの心」と、強く、正しく、温かい、「武士の精神」をもって取り組むとともに、社徳のある会社を確立する。
- 経営の優先順位
お客様に対して最高のサービス・商品を提供することを最優先とし、併せて社員にとって働きがいのある会社の実現に努めるとともに、収益の拡大を通じて株主の期待に応える。
- 経営の基本戦略
常に変化する時代のニーズに適うべく、警備業を中核としつつ、新たな分野におけるサービス・商品を幅広く提供する。
- 社会・公共への貢献
安全・安心に関する公の施策に協力し、社会の発展に貢献するサービスの展開と商品の開発を行う。
「武士の精神」が経営理念に出てくるとことが、いかにもALSOKという感じがしませんか。ALSOKにはレスリング部があって、オリンピックで活躍した吉田沙保里選手や伊調馨選手が所属していました。ALSOKがスポーツに力を入れているのも「武士の精神」からきているのでしょう。
さらにカレーハウス「CoCo壱番屋」を全国に展開する壱番屋の企業理念(社是、ミッション、経営目的)を紹介します。
社是
ニコニコ・キビキビ・ハキハキ
ミッション
経営を通じ人々に感動を与え続け、地域・社会に必要とされる存在となること
経営目的
会社にかかわるすべての人々と幸福感を共有すること
わかりやすい社是だと思いませんか。「CoCo壱番屋」でカレーを食べたことがある方なら、同社の社是が社員に浸透していることがわかります。
壱番屋は社是について、「いつもニコニコ笑顔で、キビキビと動き、ハキハキと受け答えする」。略して「ニコ・キビ・ハキ」は、私たちにとって、あらゆる行動の核となるべきものです。言葉で表現するのは簡単ですが、感謝の気持ち、前向きな意欲、最善を尽くす努力などを身につけていなければ、高いレベルは維持できません。私たちは、一人ひとりがあたり前のこととして「ニコ・キビ・ハキ」を実践できるよう常日頃から心がけていますと説明しています。
最後にエターナルホスピタリティグループ(旧鳥貴族ホールディングス)の事例を紹介しましょう。同社の企業理念は「うぬぼれ」です。
永遠の理念「うぬぼれ」
焼鳥屋で世の中を明るくしていきたい、という「うぬぼれ」を永遠に持ち続けます。
「焼鳥屋」はエターナルホスピタリティグループの祖業。そして「世の中を明るくしていく」は創業の精神。新しいグループ体制となり、事業領域を「焼鳥」から「チキン」への拡大させた今も、そしてこれからも、焼鳥屋で世の中を明るくしていくという「うぬぼれ」を永遠の理念として追求してまいります。
同社の大倉忠司社長CEOは著書『鳥貴族「280円均一」の経営哲学』(2012、東洋経済新報社)のなかで、「もともと理念や志に共感しない人は採用しない」とまで言い切っています。採用時には、もっとも基本的なところで企業理念や志に共感できるかを見ているといいます。
このように企業理念やパーパスに共感することを就活の軸とするのは有力と言えるのです。